小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

2011-07-01から1ヶ月間の記事一覧

狂二 Ⅲ 断崖編 その30

2010年3月31日深夜 日付はまもなく変わろうとしていた。 雨はすっかり止んでいたが、かき分けるブッシュには無数の棘があり、 ポンチョ代わりのブルーシートを二人とも被ったままでいた。 例の崖を登りきったあと、獣(けもの)道すらない坂を転げる…

狂二 Ⅲ 断崖編 その29

行く河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。 /方丈記 鴨長明 より 体の慄(ふる)えこそ止まっていたものの、 ス…

狂二 Ⅲ 断崖編 その28

2010年3月31日 夕暮れ 浩二は雲の向こうの、かすかに見える太陽の動きから「時」を測っていた。 が、とうとう、はるか彼方海の地平線に沈もうとしていた。 もう夕暮れだというのか。あれから4時間以上経過している。 登っても登っても、一向にさき(…

狂二 Ⅲ 断崖編 その27

2010年3月31日午後0時10分 だが、 時計を持たない二人にとっては、正確な時刻など、知る由もなかったろう。 男が浩二の足元を見て云った。 「そのままじゃ、この崖は無理がある。脱いで、貸してみろ」 「安全靴で、丈夫だぜ」 「その丈夫さが、命…

狂二 Ⅲ 断崖編 その26

2010年3月31日午前11時20分 南紀新報から教えてもらったその雑居ビルは、 図書館と直線距離にしてわずか400メートルもなかった。 だが、一方通行が多く、ここでも何往復かを余儀なくされた。 (コインパークにそのまま停めて歩いてきた方が早…