小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

2017-07-01から1ヶ月間の記事一覧

そして、池上線43

中庭から覗いた空は雲ひとつない青空が広がっていた。 だが、半島めぐりのドライブの筈が、何となく出かける気になれずに居た。 朝方に聴いた熊本地方の地震ニュースの影響なのだろう。 馬渕も同様な雰囲気を漂わせ、特段珍しくもない、古い家の佇まいとかを…

そして、池上線42

少し前の汗ばむ陽気から一転し、やけに冷え込む朝だった。 その分晴天は約束されたも同然。東京からやって来た馬渕との半島巡りには絶好びよりとも言えよう。 だが、夜中と、朝方に発生した熊本地震を伝えるニュースが心を重くしていた。 木曜夜の報道にも驚…

そして、池上線41

何度目かの寝返りを打った。 いつもなら、かすかな音でしかない柱時計の針の音がやたらと響き、海鳴りの音は聞こえない。 けれど風は海の方から吹いている。軒先きの仕舞い忘れた、もの干し竿がうるさい。 「あらぁ、やっぱ外に出ると潮の香りが凄いですな、…

そして、池上線40

「そちらの勝手に付き合ってるヒマなぞ御座いません」 まさに電話を切ろうとした瞬間だった。 マブチの、あーと云う絶叫が聞こえ 「き、切らないで、さ、佐伯勇次さんご存知ですよね、 さ・え・き・ゆ・う・じッ」 電話を追いかけるかの如く、声が飛び込んだ…

そして、池上線39

けっきょくの処、マブチ を名乗る男から電話が入ったのは、 バイト学生たちを帰したすぐの後だった。 あまりのタイミングに、まさか見張られてる? 一瞬ドキリとしたものの、マブチの声に不安も一瞬で吹き飛ぶ。 少し低音ながらも、やたらに軽く、明るい。 …