小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 2 波濤編

続・狂二 波濤編42

「今野慶一さん、もう一度録音テープお借り出来ますか」姫路署 捜査一課の応接室では刑事や職員達の出入りが激しくなっていた。病院から舞い戻った捜査一課の加納課長に 今野慶一はフトコロからネット掲示板からプリントアウトした用紙を見せながら、「大阪…

続・狂二 波濤編41

民宿“はせ川”の 女将 長谷川千代は 笑顔でヒロシを迎えてくれた。「あれまあ、お客さん 海 相当荒れたでしょう。ようお越し」「少し早いが、あいにくの天気や。着替えと 荷物を置かせてもらいに来た」「へえへえ、どうぞどうぞ かましまへん」「女将さん な…

続・狂二 波濤編40

雨は小止みになっているものの、風は相変わらず強い。当然、小型漁船を改造しただけの 通学船も波に揉まれ、木の葉のごとく、揺れた。「姉ちゃん・・・」同じタケ島に住む 小学生らがサヤカにしがみついて来た。 よろず屋、彦さんちの近所に住む子らだ。「大…

続・狂二 波濤編39

中庭側に出た佐々木淳一。雨に濡れそぼった雑草に足をとられるのを注意しながら、桜の木陰に移動した。頭上でカサッ と音がした。桜もすっかり散り果て、今や葉桜になった桜の大木に小鳥が雨宿りしていた。思わぬ闖入者 佐々木に驚いて、飛び立った。不気味…

続・狂二 波濤編38

マツ島神社を目指して歩きだしたヒロシだが、荒れ模様の空を見上げた。“例のブツ”や着替えが入ったボストンバッグ、それに着慣れないスーツを考えた。先に予約をしておいた民宿に向かう事にした。「早く着替えを済ませ身軽になりたいのぅ」確認の電話をすべ…

続・狂二 波濤編37

姫路署捜査一課 加納課長は 姫路市総合病院 緊急処置室で再び 担当医の島野に入室を制止させられた。「患者の意識が いま一つ安定しない様です もうしばらく外でお待ち頂けませんか?」ベッドの上で、田中巡査は その声を聞きながら一安心しながらも、若干の…

続・狂二 波濤編36

一つの波を超えるたび 船内は大きく傾いた。フェリーをたたきつける風の音はますます激しくなっていた。今の所 雨は小止みだが、いつ滝のような雨粒が叩きつけても不思議ではない空だった。僅か30分の船旅だったが “ヒロシ”は 何時間も船に揺られた気がし…

続・狂二 波濤編35

「みんな 雨合羽の用意はいいかぁ」サヤカが空を見上げ、タケ島へ帰る学童を並ばせている時だった。屋根付き渡り廊下の影から 男が飛び出した。片手で用務員の首を巻きつけにじり寄って来た。「おい 船 わしらも乗せてくれるか」用務員の顔は蒼白になり 額に…

続・狂二 波濤編34

雑木林の小道を15分ほど駆け降りると、ようやく学校の校庭が見えた。奥に見える校舎の廊下で 何人かの生徒らが立ち話をしている姿も見受けられた。今のところ特に変わった事はなさそうである。学校の裏門横。しゃがみ込み、息を整えた情報屋の佐々木淳一は…

続・狂二 波濤編33

JR姫路駅 駅前 貸しコインロッカー前に着いた ヒロシは さりげなく周囲を見渡す。 平日で通勤時間帯から外れた午前10時半という 中途半端な時間が幸いした。 強くなりだした雨脚に、タマの人々もヒロシの背中を早足で通り過ぎる。 組長から預かった キー…

続・狂二 波濤編32

姫路市総合病院 緊急処置室の扉の前にいつしか姫路署の刑事たちが集まっていた。家島諸島マツ島の駐在所に於いて、爆破事故発生、それに伴い巡査部長負傷・・・との消防本部救急車からの無線連絡が入っていたのだ緊急処置室のベッドに寝かされ、点滴の針を腕…

続・狂二 波濤編31

「えっ 家島・・・」高城から 家島について聞かれた 田嶋社長は あきらかに動揺の表情を見せた。「高城君 その話、今で無ければダメなのか」「築港冷凍のあの青年 家島に居るのですわ」役員会議を終え 社長室に二人して戻った時、高城の方から切り出した。情…

続・狂二 波濤編30

ぽつりと来た雨粒は大粒だった。 風が波をうねらせ 見上げた雲は 真っ黒だった。 ゴンこと、コウジ(狂二)は それでも和船の“櫓こぎ”の鍛錬を続けた。 波間での修練が 意味の無い様で とてつもなく意味のある事の ように思えた。 2時間も和船を操っている…

続・狂二 波濤編29

サヤカが家島に初めて来たのは まだ小学5年だったそれから 月日が流れ4月から とうとう中学3年生になった。だが生徒として校舎の門をくぐり抜けたのは、中学一年の5月以降 久しぶりの事だった。 いわゆる登校拒否生徒ではあったが、その原因は学校側には…

続・狂二 波濤編28

田嶋総業役員会議室では 前日に行なわれた大阪府議会議員選挙。立候補し、見事に初当選した田嶋社長の祝勝会が行なわれていた。一通りの仕事をこなし、ようやく一息ついた高城常務は内ポケットの携帯を取り出し、着信暦を確認する。胸の携帯が震えていたのは…

続・狂二 波濤編27

家島諸島の内、最も大きい島「マツ島」そのマツ島にある マツ島神社神主の 三好守信(みよしもりのぶ)は朝から立て続けに来客を受けた。それも 2008年 “ダダダ下り祭”の あの青年に関する問い合わせだった。『ほう・・偶然とは言え、めずらしい事もあるもの…

続・狂二 波濤編26

軽い爆発音と共に、黒煙を発見した情報屋の佐々木淳一は 息咳切らし転がる様に坂道を駆け降りた。駆け降りながら あの男の手掛かりになる“ダダダ下り祭”での事や、 わざわざ神社への道案内をしてくれた年配の巡査の顔を思い浮かべる。「ワシ、来月の誕生日が…

続・狂二 波濤編25

山頂にある神社社務所を出た 佐々木淳一は携帯を取り出した。ディスプレイの時刻を見やり、役員会議中か・・・一瞬躊躇しながらも相手 田嶋総業 高城常務の番号をプッシュした。 高城常務から依頼されていた あの男の消息を探していてついに 今の居場所を突…

続・狂二 波濤編24

幸いにも、飾磨港フェリー乗り場は閑散としていた。長身のローレンスには紺色のビジネススーツに着替えさせ、目立つのを少しでも低減させた。が、平日の午前10時と言う中途半端な時間帯か、フェリーに乗り込む客は まばらで、皆他人には無関心だった。『こ…

続・狂二 波濤編23

雲が走っていた。播磨灘を左右に貫く西風が強くなっていた。本日の釣果はチヌが3匹ほど。サメはここ数日姿すら見せない。「ゴン、今日のところは 上がりや 引き上げるぞ」「え? えらい早いすね」雲の間の太陽を見上げ あんなに高い位置にありますやん 赤銅…

続・狂二 波濤編22

民自党 麻田幹事長からの電話は いよいよ明日に迫った大阪府議会議員選挙への激励だった。とりとめの無い話を終えたのち、タイミングを計り思い切って切り出してみた。「ところで 幹事長 先日申し上げていた 昨年末のテロを未然に塞いだと言う うちの従業員…

続・狂二 波濤編21

大阪府議会選挙投票日を翌日に控えた 『田嶋候補』選挙対策本部は最後の追い込み確認作業に忙殺されていた。 政権与党“民自党”のゴタゴタのあおりを受け、思わぬ苦戦を強いられて来たが、地元の組織票を重視し、民自党には元々頼らない関西特有の選挙活動が…

続・狂二 波濤編20

「えーと、天井の高さ230からマイナスの34センチで・・・。ひゃあー 196センチもあるやん」壁際に“ゴン”を立たせ そこからゴンの頭の先に直角定規をあて、印を付けた先を逆算していた サヤカが素っ頓狂な声を上げた。そろりと椅子から降りながら「ウ…

続・狂二 波濤編19

「ははッ 見つけたぞぅ・・・」店の入り口で いきなり響いた声に 一斉に振り返る3人組。慶一の胸倉をつかんでいた リーダー格の男が 「チッ サッキのヤツ・・・」 長身のアラブ系男に英語で 「ローレンスお前に任せる」目配せをした。「Yes」眼を輝かせ …

続・狂二 波濤編18

「ありがとうございました」最後の客を見送ったあと、携帯ショップ “ゼロベース”若き店長 今野慶一は 掛け時計の 20:20を確認し店じまいの準備に取り掛かった。シャッターに手を掛けると 人影が見えた。「あのーぅ 本日の業務は終了したんですが・・・…

続・狂二 波濤編17

田嶋総業 役員会議室定例役員会議を終えた 常務取締役 高城はいつもの習性でスーツの内ポケットから携帯を取り出した。社長始め 他の役員は ゾロゾロ部屋を後にした。マナーモードを解除し、着信履歴をチェック。大阪府議会議員選挙もいよいよ近づき、民自党…

続・狂二 波濤編16

姫路市内でも午後8時を過ぎると表通りはまだしも、一本筋が離れた裏通りではばったり通行人の数が減る。四月の中旬と言うのに、寒の戻り やけに冷え込む夜だった。市内に組を構える 竹川組のヒロシは一緒に集金を終えたケンジに向かって、「ちょっくら立ち…

続・狂二 波濤編15

中国大陸本土。南海岸に突き出た半島 マカオ。カジノと観光の町。そこの裏通り ハンバーグレストランの3階の狭い部屋でキムジョナンは 世界的に有名な ネットの動画投稿サイトユーブロードキャスト(YouBrodcast)を特にあてもなく観ていた。パ…

続・狂二 波濤編14

岩だらけの坂道の両側を びっしり取り囲んだ見物客達がどよめき、やがて悲鳴の様な歓声が沸き起こった。 “ダダダ下り祭”が始まって2時間 神主を先頭に 続く氏子組の世話人集団の先導よろしく 1トン神輿を担ぐ若者達がようやく サヤカらの目の前に降りて来…

続・狂二 波濤編13

早朝にもかかわらず 家島諸島マツ島のフェリー埠頭は50年に一度の奇祭を見物しようとする観光客たちであふれかえっていた。 「結構メジャーな祭なんやね」サヤカは一抹の不安を覚え、周囲を見渡し、テレビカメラとかの、マスコミ取材が来ていないかどうか…