小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 6

狂二の1日は 午前9時に終り(就寝)、午後4時に始まる(起床)。
と言う昼夜逆転の生活。中学を卒業し、早や3年。まだ18の誕生日を迎えて居ないから、17歳の狂二にとって 普通なら音を上げる夜勤生活。。

----築港冷凍倉庫------ 時給1000円!学歴 経験不問 体力に自信のある方望む但し 午後11時出勤、午前5時までの夜勤
時給1000円の魅力に惹かれ、年齢は18と誤魔化し、面接に行ったのは16歳ちょっとの時だった。
当時で身長は既に183あったから、疑われる事なく面接を終え、倉庫内を案内してもらった。
苦虫を潰したような無愛想な主任の話を上の空で聞きながら倉庫内を回っていた時だった。
天井からぶら下がって居た“サンドバック”が目に飛び込んだ。ボクシングジムにぶら下がっているような本格的な ヤツだ。薄暗い倉庫内でも そいつは確かな黒光りの威光を放ち、なにやら訴えているようだった。
「おっ、あれは?」それまで興味無さそうに主任のあとを歩いていた狂二が初めて口を開いた。「ああ、サンドバッグね。前社長の道楽、て、ゆーか趣味の忘れ物やね。二年ほど前、関連会社に出向で居なくなってから、今や誰も使わないからホコリまみれになってるな」サンドバッグに近寄り、指で弾きながら主任は興味無さそうに説明した。

「あのーぅ。休憩時間に使わせてもらっていいすかぁ?あ、勿論採用になったとしての話やけど」主任は 狂二の身体をまじまじ見上げ、
「はは、お前さえ断らなければ即採用やで。ココ」

で、スタートした夜勤生活。

親元を飛び出し、(と言うより捨てられたような)狂二にとってとりあえず稼ぎが必要だった。仕事内容。。。(仕事と言えるものかどうか)そのものは拍子抜けするぐらい単純なものだった。24時間操業のなにやら作業場も兼ねており、ロールコンベアから流れてくる商品を 【パレット】と呼ばれる木製の台に積み上げて行くだけの作業。

夜中2時ごろ大型トラックがやって来、積み込み作業を手伝う。
積み込みさえ終われば持ち場の作業は一応終了。 
薄暗く、だだっ広い作業場で持ち場には 狂二ひとり。
並みの人間は、作業の辛さより、まず退屈と孤独感に音を上げ、前任者は3ヶ月と長続きした者は居なかったと言う。。
だが、狂二はココが気に入った。
作業の合間には 思う存分 サンドバッグと戯れる事が出来たし、腕立て、腹筋、スクワット。。。

筋肉を鍛え上げるには 充分な時間と空間があった。


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田嶋総業の御曹司とその仲間らを一撃で倒してから、早や3週間。

日頃鍛えた “蹴り”や“パンチ”を再び試したくなった。

出勤前 いつもと違う街の繁華街の裏を歩いてみることにした。
ホルモン焼きと、キムチの匂う、独特な雰囲気がある街。
飲食店の周りでは酔っ払いのサラリーマンに混じり OLも歩いていたが、さすがに裏通りに入ると人影はほとんどない。・・・・・・・・・・・・



その時、後ろを尾行されているのに 気が付いた。  つづく