小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 11

和歌山県白浜にある 田嶋家別荘で、退院後の静養を兼ねていた竜一は“暇”を持て余していた。しばらくはレスリング部の仲間達も駆けつけ一緒に過ごしていたが、九月の声を聞き「じゃあ主将 そろそろ自分らは一足先に帰りますわ」と、皆ぞろぞろ帰ってしまった。アゴも完治が近くなり飯も普通に食べられるようになったが、この2ヶ月ほどで20キロは痩せたように思う。こけた頬を撫でながら、フト和歌山白浜冷凍倉庫を思い出した。

オヤジの関連会社で、そこの社長は“板垣”こと高城常務の弟分的存在であり、 白浜冷凍倉庫に出向する以前は 田嶋総業の旧本社近くの“築港冷凍倉庫”の社長であり、ガキの頃良く遊んでもらった記憶がある。 サンドバッグを倉庫内に吊り下げ 日夜鍛錬に励むと言う、風変わりな一面も持っていた。 拳法の達人で、“気功”の達人でもあった筈だ。リビングルーム電話台横に吊り下げの 電話帳を急いで繰った。
「もしもし、坂本社長、居られます?・・・あ、竜一言います。田嶋の・・・・」最初交換に出た女子事務員は 田嶋の一言で 弾かれるように社長を探しに行く音が 受話口の向こうから聞こえた。
「おう 竜のボンか そろそろ連絡しょうと思ってたとこや、高城の兄いから連絡もらっていた・・・」しばらくして野太い声が耳に響いた。。。
「ボンは無いで・・・・もう、二十歳も過ぎた・・・」そう言いながらも、何やら 懐かしい感傷から、こみ上げるモノがあり、思わず受話器を握り締めた。        

                   ※
コンビニエンスストア、朝のピークは午前7時半~8時半だと言われている。コンビニレーソン弁天町店も9時前になると、ぱたりッと客足が途絶えた。 同僚と、やっと一息ついたね、と談笑する頃、古庄多美恵の教育大大学時代のクラスメートが尋ねて来てくれた。
「あら、三浦君いや三浦先生お早う」三浦先生と呼ばれた三浦圭吾は多美恵と同じ、教育大を卒業し、福井の中学校で教鞭をとっているが、大阪に実家があり、多美恵が事情があって中学校を辞める事になった時大阪へ出たいと言う多美恵に色々相談に乗り、何かと尽力してくれた相手だ。大阪へ出張の折には必ずと言って良いほど多美恵の店に立ち寄ってくれている。 たしか来年中学に入ると言う娘さんがいた筈だ。
「お元気そうで何よりです。」
「あ、色々話も溜まってるの、もう直ぐココ終わるからそこのファミレスで待っていて。。」一方的に言った後、「あ、時間は大丈夫?」
「はは、勿論」その後 近くのファミレスでよもやま話に話が咲いた。最初はたわいの無い近況を言い合っている時だった。
「・・・・に、しても 多美恵が弁天町で働くとはね。数年前伝説的なワルが この町の中学を卒業したらしいですけど知ってますぅ?」
「へ~ じゃあココも相当荒れたの」
「それが、最初こそ荒れたものの 圧倒的に力を持つ大将のお蔭で、むしろ大阪一といわれる程の平穏無事を保てたそうです不思議なもんやね。卒業後もこの辺りに住んでるのと違うかな、背が恐ろしく高く 当時 付いたあだ名は 狂二。。。。」
うっかり多美恵は 飲みかけていたアイスティーを噴出しそうになった。
「えッ その子と今 付き合ってるんよ」

「え゙~!」
今度は 三浦がアイスコーヒーを噴出しそうになっていた。         つづく