教育大時代からの親友、三浦の向こう側にファミレスの窓を通して スーパー“エオン”のビルが見える。 ラストサマーバーゲン実施中―――と、大書きされた垂れ幕が風に揺れていた。コンビニの常連客 狂二とより親しく口を聞ける仲になったのはスーパー“エオン”食品売り場がキッカケだった。
----------夕食材料の買出しに“エオン”の食品売り場をうろついていた時、買い物カゴを下げ、何やら買い込む狂二に会った。
コンビニで声をかけ、こっそり“ガム”をオマケしてあげた日・・・その夕方だった。「あらッ」の声に ふり向いた狂二は 一瞬驚いた表情をみせた。顔なじみと言えど、いつもと違う場所、いつもと違う時間で再会した場合 『果たしてどこの誰だっけ?』と考えこむ・・・と言われているが まさにそういう表情だった。が 瞬時に 「おッ」と反応してくれ
「丁度良かった、明日これを返そうと思って・・・」とポケットから朝のガムを取り出していた。「あら、いいのよ、ささやかですが私からのオマケやから」久々に紅潮し、頬が赤らむのが自分でも分かった。一寸したイタズラ心でオマケしたガム(勿論、従業員購入制度で買ったもの)を目の前に差し出され、うろたえそうになってしまった。
「じゃ 遠慮なく貰っとくわ」素直にポケットに仕舞い直した。
「それで、夕食の買出し?いつもこの時間に? 独り暮らし?」いつの間にか 立て続けに聞いていた。
かぶりを振りながら、「いつも弁当とか、パンとか外食がほとんどで、ココ来るの 初めてッス。。体重 もう少し増やそうかなぁ・・・と、外食だけやと、財布もピンチなんす」確かそのような会話がキッカケだった。その後 店内を一緒に歩きながらアレコレ聞いてみると 料理はしたコトも無く、新聞の家庭欄に載っていた “肉じゃが”の作り方を参考に 初めて挑戦してみる。。。という事だった。その後 いろいろ聞けばなんと、住んでいるアパートは 多美恵の住むマンションから道路一つ隔てただけと言う 眼と鼻先の距離だった。「じゃあ、ウチへおいでよ 作り方教えてあげるから。。。」迷いもなく自然に言葉が出たのだった。
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白浜冷凍倉庫は 田嶋家別荘から歩いても行ける程の距離だった。温泉街 ホテルのネオン灯りが海を隔てて見える小高い丘にあり、すぐ下の漁港からは直接荷物を運び込めるスロープが整備されていた。構内に一歩 入ればピーピーピー とフォークリフトがバックする時の警報音があちこちから響いていた。魚の臭いが潮風とともに竜一の鼻をやさしく撫でる。事務所のドアをノックし、くぐり抜けると紺色の事務服を着た年配の事務員が振り向いた。
「あ、竜一さん?」
「はい お邪魔します」
直ぐに 事務室横の応接室に案内された。小ざっぱり整頓された部屋で 壁には 「何事も気合だ」肉太の書道額が飾ってあった。案内の事務員は事務所に戻ると「大将、竜さんがお見えです。田嶋本家の。。。」薄い壁一枚だったから事務員の声は良く聞こえた。はは、大将て呼ばれているのか・・・・何となく 嬉しくなった。
「ようッ 田嶋のボン よく来た。」しばらくして 野太い声を響かせ坂本社長が入って来た。
だがあれッ と思うほど 小柄だった。
あ、そうか 子供の頃以来の再会 いつの間にか自分の背がこの社長を追い越していたのか。。。
「えろう、痛い目にあったそうやのぅ。高城のアニィから、話は聞いてる。はは、何事も経験やな、ま、良いクスリと言うべきか。。。」
黙り込んでいると
「で、明日からでも拳法。特訓するか、今からでもワシは、ええど。」
えッ!
思いもよらない言葉を向こうからかけてきてくれた。
「えッ、ですがそろそろ大学も始まるし。。」
「休んだらエエがな。2ヶ月の重症負ったんやろ、大学側も目、つぶるやろ」
「えぇ、まあ。」
「が、言っておくが 決して喧嘩の為に 特訓するんやないど、己(おのれ)を磨く為や。。。」
そうして、本当の試練とも言うべく特訓が始まったのだった。
つづく