小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 14

ハイヤーのカーラジオスピーカーから昨夜行なわれたナイターの結果が流れていた。
「あー!また勝ちよった。。。タイガース」
スポーツニュースに続く、運転手の声で 高城は目が覚めた。
車外を見ると安治川に架かる橋を渡っていた。
「お。もう直ぐ築港か・・・」
「あっ 常務すんません 起こしてしまいましたようで。。」
「いや、おかげで良く寝た」

ミナミの料亭で 民自党の幹部連中との接待後 田嶋社長を 宝塚まで送り届け、その足で 築港に向かうところだった。
時計は午前1時半を示している。胸ポケットの携帯が振動する。築港冷凍を表示していた。
「はい 高城です・・・申し訳ない・・・はい・・・今 安治川を越えた。・・・はい お願いします・・」

 相手は築港冷凍 (正式社名 築港冷凍冷蔵倉庫と言い、田嶋総業の関連会社)の中岡社長からだった。
「はは、昨夜10時にはお邪魔する。。と言っていたものだから、心配になったんだろう」
 「そりゃあ この時間ですからね」実直な運転手も笑いながら返した。

表門の角に 中岡社長が出迎えていた。
「常務、ここでお待ちしますが 何時ごろになります?」
運転手が尋ねた。
「いや、構わない 帰りはタクシーでも呼んでもらうか中岡君に送ってもらう。遅くまで 本当にご苦労さん」
そういうと、運転手はパッと笑みを浮かべ
「は、ありがとう御座います。常務も お気をつけて」そう言うや Uターンしていた。

「高城常務 お久しぶりで御座います」中岡社長が駆け寄ってきた。
白浜に行った坂本社長と同様、この中岡社長も 高城の腹心の部下の一人だった。
ただ、高城としては、頭脳は優秀だったが、体力的に少しひ弱なところがあり、線が細いのが少し不満だった。
「おう ココは懐かしいのう。あの頃のまんまや」
一通り 訪問理由の “国家公安委員長名 通達書類”の一件を説明したあと、「少し倉庫内を見物させてもらうかな」
ここ数年景気低迷のあおりを受け、倉庫業界も例外ではない。が、ここ築港冷凍だけは 3年程前から順調な利益を上げていた。単なる場所貸しだけでなく 冷凍食品の詰め合わせ加工など、食品メーカーに代わり パッケージング作業を取り入れるなどして売上を伸ばしていた。 

中岡社長に続き、作業場に入った時だった。一人の作業員が目に入った。そして高城はしばし見とれる事になった。
その男。まるで後ろに目があるかの機敏な動きで フォークリフトを自在に操って居た。荷崩れしそうな 不安定なコメ袋の荷をパレットに積み上げ、前進、後退、ターンなど 一切のムダの無いハンドルさばき そして急停止したかと思えば、カルワザ師の様に
 「ヒョイっ」とリフトの先にぶら下り、「グイッ」と片手懸垂で我が身体をリフトの爪からせり上がった。その体制のまま、おそらく60キロはあるだろう 崩れかけた米袋を、もう片方の腕で軽々持ち上げるや整頓させた
終わるや何事も無かったかのごとく、フォークリフトの座席に飛び降りるや、リフトを操る・・・
一連の動きは、まるで美しく流れる音楽の様だった・・

「常務 どうかなさいまして?」
「うむ、あの従業員。。」
「コウジ。。。が何か」
「コウジ?」
「あ、いえ 彼の名前です。」
「コウジ。。。いつから此処に?」
「えぇ、三ヶ月ほど前から。。。バイトなんですが」
「よければ呼んでくれないか」
「え。何か失礼なコトやらかしたでしょうか」
「あ、そうじゃなく。少し気になって。。。」

いうや 中岡は
「す、すみません。常務」
と謝った。
「え、なぜ君が」
「あとで気づいたんです。満18歳は11月の誕生日でようやく。。。」
「はあ?それがどうした」
「あ、いえ。未成年に深夜労働など」
「はは。そんなコトかいや。ま、今年迎えるんだろ」
「えぇまぁ。」
「じゃあ何も問題ないじゃないか。ワシとすれば聞かなかったことに。。。
あ、いや。それも合わせて奴に訊いてみるか。とりあえず此処に」

「す、すみません常務。直ぐに・・・」
いうや
「おーい コウジ君。。。」と声を張り上げながら手招きをした。
コウジと呼ばれた その青年は
なんすかぁッ もう直ぐ10トン来るから後にしてくれませんかぁッ
倉庫内に響き渡る声を上げるやこちらを無視、作業を続けた。

「こ、これッ この方は本家の・・・」中岡が駆け寄ろうといた。
「待ちたまえ、中岡君。彼の言う通りだ、後で良い・・・」
「しかし・・・」恐縮しながら言葉を続ける
「常務 すんません。かなり使えるバイトなんですが、何せ、口の利き方を知らん奴でして・・・」
「あはは・・あの歳で 口の利き方を知ってる方が。ワシは苦手や」
高城は笑いながら中岡を振り返った。
その時、中岡の肩越しに、隅っこでぶら下っている “サンドバック”が目に入った。
「おや、アレは 坂本君の・・・」
歩み寄ると、かなり使い込んだ形跡があり、そのくせ様々な革を縫いつけ、ヘタクソな裁縫ながらもごていねいな補修がされてあった。
「以前立ち寄った時、坂本社長が配転のあと、ホコリまみれでぶら下ったままだったじゃないか」
「えぇまぁ」
間近でみると、ツギハギだらけながらも、しっかりと磨き込み、黒の光沢を放っていた。
「う~む。こ、これは・・」
あー すッ。スミマセン これも彼が・・・
             つづく