「中岡君 彼と二人だけで話がしたい、いいかね?」
「二人だけ・・・と申しましても。。。常務」
中岡は言葉を選びながら詰まった。どことなく困惑が現れていた。
「コージも バイトとは居え、ウチにとって必要な戦力ですので・・」
苦渋の表情でつぶやく中岡社長を見ながら
「はは・・心配せんでも良し。。ココの人事権は全てキミにある。ワシは単に趣味の話がしたいだけや」
言うと安心したかの表情になった。中岡社長に気に入られている証拠だな・・高城は確信した。
コージ、あまり失礼の無いように。。。言い残して中岡社長は事務室へと出ていった。
「で、趣味の話て、なんすかぁ?」
言いながら狂二は、目の前に現れた常務とか呼ばれる男を見下ろした。
ながらも秘かに身構えた。そこそこの歳だろうこのオヤジから発する“気”はタダならぬモノを感じた。
『一体何者なんだぁ。。こいつ?』久しぶりに圧倒されていた。
「その前に作業日報を書きとめておきたいけど ダメすか?」
ふと思いつき、はぐらかす様にフォークリフトにぶら下げてあったメモホルダーを取る。
高城がふと見やると、図とともに数字や細かい文字でビッシリと埋め尽くされていた。
「何の記録かね」
「あ、これ。外から入庫された日付と数量、そいつが出庫していった日付とか。。」
「いつも記録しているのかね」
「えぇまぁ。つぎの段取りとか、置き場を決めるのに結構役立つので。。」
「ほーう。いつの間にそんなシステム?中岡社長の指導か?」
「あ、自己流っす。手っ取り早く作業を終わらせたいんので・・・」その後に続く 『で、筋トレに早く励みたいから・・』の言葉は 飲み込んだ。
高城は 再び感心しながら 「この男・・・」
作業日報を書き終わる間、しばし考え込んだ。
『おそらく竜一を一発で殴り倒したのはこの男だろう』元刑事の情報屋の調査は確かだ。その時の人相、体格などピッタリだ。あの後、竜一の後輩を呼び、たしかめたのを思い出した。最初に因縁を吹っかけ、手を出したのは、やはり竜さん側だった。。。情報屋を使ってまで探したのは 竜一が彼を捜し出し、またもや問題を起こす前に、決着を・・・と考えたからだ。田嶋社長が来年の府議会に立候補予定とあっては家族の暴力沙汰は持ってのほかだ。がその本人は 白浜の坂本の下、性根とも鍛えられる事になっている。『ガキの喧嘩に今さら口出しもなかろう。何よりこの男、充分戦力になるではないか、将来の田嶋総業の中においてでもだ・・・』
漠然とそんな事を考えた。
「おーい、中岡君、話は終わった」事務所に向かいながら叫んでいた。
※丁度その頃、大阪港を無灯のまま就航する 不審な漁船が徘徊していたのだが
二人とも知る由もなかった・・・・。
つづく