小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 19

築港冷凍倉庫裏の岸壁に接岸するや、坂本社長は手馴れたロープワークでクルーザーを係留した。
 胸ポケットから携帯を取り出し、中岡社長を呼び出す。「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ん?おかしいな」
深夜になるかもだが、竜一を送り届け、その後中岡社長の車で自宅まで送り届ける手はずは昨夜中に打ち合わせしていた。
だが携帯は長い呼び出し音のあと 「お客様のお掛けになった先方の電話は 電源が入っていないか電波の届く範囲には居られないよう・・・」のアナウンスのみ虚しく響いていた。
「しかた無い。とりあえず倉庫まで行ってみよか、誰ぞ居るやろ」
 竜一を先に岸壁のハシゴを上らせた。

築港冷凍の構内を照らす灯りはかろうじて点いていたものの、構内はシーンと静まり返っていた。
「果たしてこんな時間 だれか居るんか」不安げな声で竜一が尋ねた。
「ワシの居る頃と違って、24時間営業の店も増えたし、冷凍倉庫の需要は幾らでも大阪にはある」笑いながら坂本社長は従業員入り口のドアノブに手をかけた。
うひゃー懐かしい匂いやのぅ。と坂本社長が言った。おおよそ6年ぶりの築港冷凍の匂いだった。
倉庫特有の匂いが 竜一にもよぎった。
奥の方で若い従業員が黙々と荷物の仕分け作業を行なっていた。ふとコチラに気付き、乗りかけたフォークリフトから飛び降り駆け寄って来た。
「あ、どうも白浜冷凍の社長さんで?」そう言いながらヘルメットを脱いだ。近づいて来たその従業員はかなりの長身だった。
「!」
「!」
「あーッ!」「えッー!」竜一と若い従業員(狂二)ふたりほぼ同時に声を上げる。
「なんやお前ら知り合いかいな」
坂本社長が傍らで笑い声をあげた。
「知り合いも何も・・・・」竜一が言いかけた時、
「で、白浜の坂本社長さん、中岡社長からの伝言です。」男が坂本社長を振り返り
「不審貨物の件で急遽大阪府警に行く事になったんですわ、直ぐに用事が終わると思うから、待っていて欲しいと・・・」
「こんな夜中に一体何があった?」
「数日前から持ち主不明の荷物が立て続けに到着したんですわ、香港経由の・・・」
「あーその件やったら、白浜にも通達書類来てた、変な話やのぅ。で、本社の高城常務には知らせたのか?」
「ハイ 常務も一緒やと思います」
すると時計を見た坂本社長は、
「クルマ貸してくれるか、ワシも一寸覗いて来る。お前ら、顔なじみやから、ココで一緒に居てくれるか?」

「えッ」「えッ」
またもや二人同時に叫びながら
「それも良いなあ」・・・・
ふたり同時に顔を見合わせ笑った。

          つづく