小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編 6

三月も半ばを過ぎると家島の海に穏やかな陽光が、 降り注いでいた。 朝晩は冷え込むものの 昼間の海水温は暖かだった。 時おり跳ね上がる波しぶきでも、ほてった頬に心地よい。

遠くに見える四国の山あいの稜線が 青く煙っている。

空は夏の空の様に どこまでも青く澄んでいた。
「ゴン そこやッ、手ごたえあったところで ちょいッと引っ張り上げるんや」 (昨年の暮れ、明石沖で助けたられた記憶喪失の男、名無しのゴンベイから、 とりあえず ゴンと呼ばれていた)

「で、すぐさま戻し、一呼吸置いてから 一気に釣り上げる。。」

ゴンと呼ばれた男、しばし格闘していたが、やがて70センチはある 鯛を釣り上げていた。

「ええか、その呼吸を忘れるな、わしらの一本釣りは “マキ餌”などせず、おのれの技と勘だけが頼りやけんのぅ」 漁船を片手で操りながら田嶋秀治が怒鳴った。 怒鳴りながら、「なんと勘のいい男や、体力もけた外れにタフやないか。。。」

鯛を片手に微笑むその男の顔を見ながら心の中でつぶやく。

さらに。。。秀治 独特に編み出した “鮫狩り”の後継者。。。 3年前交通事故で他界してしまった娘夫婦らの顔、 一人残された 孫娘サヤカの顔が 交互に浮かぶ。

「ワシの跡継ぎ・・・か・・・」再度 つぶやいていた。

そのころ、島で留守番する“サヤカ”に 姫路市内の携帯ショップから電話があった。

「ぶ、ぶっーーー 遅かったじゃん」 「えッ! あぁ、あの時いきなりベンツで乗りつけビックリしたてか?ハハ・・・ま、その話今度ゆっくりな」

玄関先の黒電話のコードを指に巻きつけながら応対していた。 同級生の先輩(彼氏)と言う事もあり、遠慮のない口をきいた。

「で、ようやく修理終わったん?」 「・・・・・・・・・・・・」 「何それ、あの時復活する可能性ある言ってたやん」 「・・・・・・・・・」 「肝心の自局ナンバーは判読不明てか」 「・・・・・・・・・・・・・」 「えッ?メモリー登録・・・一軒だけ・・・うん、今メモする・・・」

慌てて電話台引き出しからメモ帳をとりだす。

「06の・・・・・最後のケタがわからへんてか?まぁ、ええわ、手がかりとしては充分やん、ありがとう」

思わずお辞儀しながら受話器を置いた。 「へーあの子 大阪か、いや少なくとも、大阪に知り合いがいるのだけは間違いない」

さっそく 今メモしたダイアルを回したい衝動にかられた。 最後のケタ番号は不明との事だったが、ゼロから順にかけてみれば解る筈だ。

が、秀じぃ の言葉を思い出し、踏みとどまった。

「とてつもない犯罪に巻き込まれてる奴かも知れん。 例え電話番号が解っても うかつに掛けてはならんぞ。。。」

つづく