小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編 7

電話を切り、あれこれ考え込むうちに 簡単じゃないのに気がついた。

0から順番に掛けるのはいいが、先方が出た時、なんて切り出せば良いものか。。。





〈あのーう、少々お尋ねしますが、記憶喪失の人を保護してますが、心当たりありません?〉

など 切り出すのも変だ。

もし、あの子が、
ヤバイ組織から追われている身としたら 「迎えに行くけど、そこドコですのや?」
そう聞かれたら黙る訳には行かない。こちらの住所をさらけ出すことになってしまう。

ヘタに悟られずに、相手を探り出す方法・・・

悩んだ末、電話の事は専門家に・・・・
先ほどの携帯ショップに相談を入れてみた。

ダイヤルを回しながら頼りなさげな顔を思い出した。

姫路市内で暮らして居た時からの親友ひろ子の先輩つーか彼氏。工業高校電子工学課中退と聞く。で、バイトで今のショップの系列に入り、人並み以上の知識と器用さを見込まれ とうとう店長にまでなったらしい。

「可能性は薄いけど この携帯から発信してみたらどうだろうか?」
ショップの若い店長が続ける。

「06で始まるのは固定局やけど、留守の時、携帯に転送を設定するケースが多い。で・・・」

「で・・なんよ」
「それで転送設定してた場合の話やけど、登録同士の携帯の場合、何らかのメッセージが現われる。。。
 それで、もし何ヶ月も行方不明者からの発信通知なら おそらくビックリするほどの反応があるのでは?」

「うーん、それて可能性薄いじゃん、それより固定局に携帯の番号現れるのとちゃうん?」

「普通のヤツなら・・・が、この機種 昨年バグで大問題になったヤツやねん、11月15日発売で龍馬の怨念ちゃうか?と業界で話題になったシロモノで。。。想定外の故障が多発で・・・」
「あ、それと二つ折りの留め具 あれも簡単には折れないフツーでは」

その後の話では 登録同志だけ何故か相手の番号が現れる・・
という事だった。
「ふーん」
唸るしかなかった。


「僕が掛けるわけにいかないから、宅急便で送る」
「じゃあ、お願い、こっちでやってみる」


 そんなやりとりが終わった頃、秀治と“ゴン”が漁から帰ってきた。

サヤカ! 飯やメシ、腹減った。

秀じぃに続いて “ゴン”の日焼け顔から白い歯が覗く。

我が家にやって来た頃とは すっかり別人の様に逞しくなっていた。
 いや 元来そうだったのだろう・・・

家島諸島、潮風と、太陽の恵み、海の幸が 元来の逞しい青年に戻してくれたのかも知れない。

 

 フト、彼の記憶が元に戻り、この地から離れて行くその時、
その瞬間の姿が、瞼に浮かんだ。

そして なぜか 寂しい気持ちが充満している自分の心に気がつき、うろたえていた。。。

            つづく