小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編 8

日が明けた。丁度お彼岸の入りだった。

「秀じぃ、あとで“ゴン”と一緒にお墓参りに入ってくるわ、で帰りに “よろず屋、彦さん”の店に寄っても良い?」

サヤカが朝食の後片付けをしながら言った。
今日は漁も休みで 久しぶりに全員揃った食卓だった。
記憶喪失の“ゴン”は 朝からドンブリ飯3杯キレイに平らげ、
横になり うとうと寝始めている。

この子、以前は夜型の生活やったかも知れんな、つーか、深夜とか、早朝には シャキッとするとこあるやん」

秀治は縁側に腰掛け、“仕掛け針”の手入れを始めていた。 

「よろず屋にもし“ゴン”の事聞かれたら 春休みに大阪から来てる親戚の子や、言っとけ」
背中を向けたまま秀じぃがつぶやく。

「わかってる・・・って」



家島本島から さらに離れた秀治らの住むタケ島は
周囲10キロにも満たない ホンの小さな離れ小島だが、
島の人口数百人・・・その殆んどは家島との玄関口“タケ島港”周辺に密集している。
 よろず屋も港からすぐのところにあり、秀治らの住む家とは
山を挟んで逆の方角にあり、“ゴン”の存在は 今まで島の住民誰にも知られては居なかった。
それは ある意味、奇跡と言えば奇跡に近かった。
 
“よろず屋”は 一寸した食料品、日用品はもちろん 島の住民への郵便物、宅配荷物の取次ぎも兼ねており、
今日は 例の携帯を引き取りに行くのだった。 


「ふーん、山の上にお墓か、なら、海が見渡せる」
サヤカの後ろで 石の階段を登りながら“ゴン”がつぶやく。
「ま、元々土地の広い島じゃないから と言う事もあるけど、
空の上から ふるさとの海を見守り続けて・・・」
と、言いかけ あと 涙声になった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

3年前まで住んでいた姫路。高速道路・・・
飲酒運転の大型トラックに追突され サヤカの両親が乗っていた乗用車は一瞬にして潰されたのだった。
 
その時小学校5年だったサヤカは授業中だった。

廊下をパタパタ走り寄るスリッパの音。

ガラッと音をたて戸を開ける音。

担任に耳打ちする用務員のおじさんのひきつった横顔。

いつもは厳しい担任の先生、いつになく優しい口調で「今から一緒に職員室に来なさい」。。。少し震えていた。。
その時 それらの出来事すべてが今でも鮮明に蘇る・・・

 気が付くと “ゴン”が優しく肩に手をかけ うつむいていた。

「あはッ ガラにもなく 昔を想い出したりして・・・」
ケロっと笑い、取り繕いながら言ったが、しっかり涙は見られていた。



 お参りも済ませ、来た坂道を反対側に降りて行った。
港に向かう二人は まるで恋人同士の様に 笑いあい、ふざけあい、島の空に声が弾んだ。

港の手前に 夏など遠方から海水浴にやって来る美しい浜があり、
その浜の入り口に差し掛かった時だった。
 

歓声が上った。
振り返ると 若者の集団が浜で昼間から酒盛りをしていた。
キレイな砂浜は ビールの空き缶や、食べた跡のゴミ類が散乱していた。
 もちろん島の住民ではない。テントが後方に張られていた。
きっと春休みを利用しキャンプにでもやって来たのだろう。

 「無視や、無視・・・」

“ゴン”の腕を引きながら サヤカが小走りになる。

「ヒューヒュー そこのカップルさん」

「用か」
“ゴン”が立ち止まりながら言う。

「用か・・・やて 勇気あんなあ、コイツ」
立ち上がると結構身体のデカイ男が、後ろの仲間に顔を向けながら言う。

 その男だけは酔わずにいた。飲んでいないか、それともかなりアルコールに強い人種なのかも知れない。

「わはは・・勇気野郎に乾杯!!」
「カンパーイ!」

口々に叫びながら 他の連中も サヤカらを取り囲みに
パラパラ立ち上がって来た。


        つづく