小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編16

姫路市内でも午後8時を過ぎると表通りはまだしも、
一本筋が離れた裏通りではばったり通行人の数が減る。
四月の中旬と言うのに、寒の戻り やけに冷え込む夜だった。

市内に組を構える 竹川組のヒロシは一緒に集金を終えたケンジに向かって、
「ちょっくら立ちションしていくわ、先に帰ってくれるか」
言われたケンジは、
「そうか、遅れると兄貴がうるさいさかい、ほな先行くわ」
ヒロシから集金を終えたセカンドバッグを受け取ると、スタスタ歩き出した。

「お~ 今夜は冷えるのーー」
言いながら 電柱に向かった・・・その時


「オイッ ケイタイショップ ゼロベース ドコ?」
いきなり背後から声がした。

「はあーん?」
電柱に向かいながら振り返ると 3人の男が立っていた。
「!?」

金髪 ジャージ姿、雪駄履きの まぁ普通とは言えない“ヒロシ”に平気で 声をかけるなんて 同業なのか?一瞬緊張したが
そうとも思えない雰囲気を漂わせて居た。
声をかけた真ん中の奴と右隣は 一見日本人風の顔だち。
が今時見た事ない着ている服のセンスや
言葉遣いから 日本人では無いのだろう。。。
また 左隣に立っている男は 首一つ突き抜けた 2メートル近い中近東系の大男だった。

 長年の勘から 只ならぬ“気”を察知する。

「おまえら携帯屋に何の用じゃ」

なかなか終わらない “用”にイラつきながら 前を向いたまま返事した。
『なめられてたまるか・・・しかし変な3人組・・・』
 
「ヨウ アルカラ キイテイル コタエロ」
「知らんモノは 知らんッ・・・」
前を向いたまま ワザと大きいめの声を出した。

「ジャア シカタナイ・・」

 ヒュンッ
空に跳ぶ音と同時に 跳躍の回し蹴りが “ヒロシ”の
右首を捕らえた。

「グハっ なに さらすんじゃ・・・」

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それは いきなりだった。
モシモシ コージ コージ君なの 今 何処なの!!
サヤカは
あの時の 電話の向こうの あの絶叫に近い声が 
いまだに耳の奥にこびりついて離れられない。

間違いない “ゴン”を知る人の声だ。

で、なぜ 「あっ・・」
それだけで 切ってしまったのか 自責の念が 日々募る・・・

そうか、あの子コージて言うのか・・・
どんな文字を書くのだろう。

それより あの女の人 誰なんだろう。
母親?

いや それは無いだろう。女の勘で分かる。

妹?・・声が 若くは無かった

姉? それも違うだろう・・・

じゃあ やはり・・・・

いつかは 別れねばならない時が来る。
最初から分かっていた事だ。
それが “ゴン”いや コージにとって良い事なのだ。

でも・・・・・

当分の間だけ。。。もうすこしだけ 
“ゴン”のままで居て欲しい・・・

 もう少し 私が大人になるまで・・・・

机の上で 携帯を握り締めたまま しばらく泣いた。

秀じぃと ゴン 漁からもう直ぐ帰って来る 誰も居ない部屋の中

柱時計が 午後4時の鐘を鳴らしていた。


   いつもになく 悲しい響きだった。




         つづく