小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編17

田嶋総業 役員会議室
定例役員会議を終えた 常務取締役 高城はいつもの習性で
スーツの内ポケットから携帯を取り出した。
社長始め 他の役員は ゾロゾロ部屋を後にした。
マナーモードを解除し、着信履歴をチェック。

大阪府議会議員選挙もいよいよ近づき、民自党大阪府連関係者
からの履歴がずらりと並んだその間に 
古庄多美恵(コージ)の登録名を見つける。
 「おや こんな時間に」

 「常務 お茶を取り替えましょうか」
声を掛けて来た 第二秘書 野原ユカリを右手で制し、
 「いや あとで良い。ありがとう」言いながら窓際に立った。


御堂筋から少し外れた公園の桜は満開だった。
 『いつの間に・・・真っ盛りやな』
コージの顔が浮かぶ。手がかりでも掴めたのか、
数ある着信履歴から まっ先にプッシュした。

たった1コールで出た。
ずっと私からの連絡を待っていたというのか・・・

「済みません お仕事中に・・・」
消え入りそうな声 だが、張りも感じられる。

「いえいえ、どうしました」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
御堂筋 夕方のラッシュにそろそろ掛かるのか、窓の下
テールランプ 赤色の河が出来始めていた。

 終話ボタンをプッシュすると同時に 
モリー登録から急いで 情報屋の番号を探す。

携帯に向かったまま 第二秘書 野原ユカリに

「すまん 急用や 今夜の予定全てキャンセル 田嶋社長には
君の方から よろしく頼む・・・」

「かしこまりました」
顔色ひとつ変えず平然と応える。

この時期 急なキャンセルはトンデモナイ事なのだが、
それ以上の大事な案件と 察してくれたという事だ。
確か帰国子女と聞いていた。
未だ20代半ばの筈なのに、いつも平然と 冷静沈着 的確に高城の仕事をこなす姿に 全幅の信頼を置いていた。

その情報屋も ワンコールで出た
「常務 そろそろ掛かってくる予感がしましたんや」

小柄だが、元敏腕と云われた刑事の風貌が浮かぶ。

針の穴程の手がかりを元に 何処までも探し出す男に
これまた全幅の信頼を寄せていた。

『俺は 人に恵まれている・・・』

「・・・・・・・という事だ 選挙を控え動けない。変わりに頼む」

情報屋の返事は拍子抜けするぐらい 簡単明瞭だった

「あ、それなら簡単ですぜ、携帯から 位置情報 バッチリですわ 多分」

「頼む」
携帯を切ると 築港に向かった。古庄多美恵に直接会って見たいのと、

築港では コージの代わりに働く 田嶋竜一が居た。

 大学も結局 中退したのだった。

「奴が帰って来るまで 俺 ここに居たいな。。」

『竜さん 奴の手がかり掴めそうや・・・』

傷だらけの愛車 “ハマー”は そろり唸りを上げ 加速した。


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冷えたアスファルトの冷気で目が覚めた。
「ハテ こんな所で・・・」

裏通りの道端で寝ていた。真っ暗闇だった。
電柱に付いている防犯灯は 消えていた。

顔を持ち上げた時、右首に痛みが走った。
だが 先月 背中に完成した刺青の激痛程では無い。

そろりと手足を動かしてみた。急に頭にも痛みが走り 
そこでようやくヒロシに記憶が戻った。

「あ、くそぅ あの三人組・・・」
ジャージの袖をまくり時刻を確認する。

あれ たった5分ほど寝ていただけや。。。

「携帯屋に用があるとか ぬかして居やがったな」

ジャージ下ポケットの携帯を取り出すと さっき別れた
ケンジを呼び出した。
「ワシや 昔の連れにバッタリや 今夜は事務所寄らずに帰るわ

、スマン あと宜しく」

さあて どういてこましたろぅかいのぅ
黄色く染みのついた 下腹付近を押さえながら 立ち上がった。

携帯ショップゼロベースは 2筋向こうの雑居ビルにある。

地元の人間でも 見つけにくい所だ。

「へへ 待っとれよ」

両手コブシに力を込め 歩いた・・・


            つづく