小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編20

「えーと、天井の高さ230からマイナスの34センチで・・・。ひゃあー 196センチもあるやん」

壁際に“ゴン”を立たせ そこからゴンの頭の先に
直角定規をあて、印を付けた先を逆算していた サヤカが素っ頓狂な声を上げた。
そろりと椅子から降りながら
「ウチに来て 一段と背が伸びたんとちゃう?ここの魚、栄養満点やから」
「はは・・・そうかもな」
はにかむように答えながら コージも考えていた。

 潮の香り 海鳴り 時おり来る嵐さえ すべて昔懐かしい
あのガキの頃に戻れた気がした。

「サヤカ 出発の用意は出来とるんかぁ?」
奥で秀じぃの声がする。



「ああ とっくに出来とう。。」

いよいよ 今日から隣島の中学に復帰すると言う朝だった。

サヤカらの島には 中学どころか小学校さえなかった。
島の子らは 隣島まで通わねばならない。

が 全学あわせても 30人足らずの小さな分校らしい。
あの“よろず屋、彦さん”が、島の教育委員も兼ねていた。
彦三郎に駆け回ってもらい 殆んど休学状態だったのを
ようやく中学三年復帰へとこぎつけたのだ。

朝は8時 夕方4時 通学船が就航する。
中学生はサヤカ独り、小学生に混じり乗り込むらしい。

「めんどうなら ワシが送り迎えしちゃる」
秀じぃの言葉に
「いつまでも甘えるワケいかんけん・・・ケド寝坊した時お願い」

そう言いながら舌を出し、笑い転げた。

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「だから さっきから 言ってますやん、いきなり先客が暴れ出したんや それを止めに入っただけで・・・」

 姫路署 刑事部捜査4課又の名を マル暴担当の 取調べ室に
ヒロシのだみ声が響いた。

「本当かいや お前が止めに入るなんて ワシの前で 嘘っぱちは通用せえへんど」
捜査4課 森元課長の声も 負けじと 部屋中に響く

ノックがし、別の刑事が入って来 森元になにやら耳打ちする。

森元は ふてくされて横を向いたままの ヒロシの横顔を見つめながら
 何やらバツの悪い表情になった。
そして ヒロシに向かい
「ヒロシ お疲れさん じゃ、」
机から立ち上がった。

「な、なんじゃぁ。それ」
「だから お疲れさん ゆうてるやないか、何度も言わすな」
「いきなり なんじゃ 聞いとるんや 森元のカチョーさんよぉ」

「携帯ショップ店長の証言が取れたんや、だから お疲れさん」
「たった 侘びはそれだけかいや あ、あーん?」

「じゃかましぃッ これ以上 ワシに何を言わしたいんや 竹川のオヤジ宅 総動員して 今からガサ入れしたろッかいのぅ」

「そ、そんなぁ・・・」

「はは・・ヒロシ じゃ そう言う事で・・君 玄関まで」
調書のノートにペンを走らせていた署員に見送りを命じながら
森元課長が手を振る

「ちぇ、見送りなんか いらんわいッ 早よ帰って 寝よ」
《バタンッ》
叩きつける様に力を込め 取調室のドアを閉め 出た。

ジャラ・・ブレスレットをどけ 腕時計を確認する

『くそぅ もう直ぐ 日付変わるがな で あの三人組 それにあの携帯屋・・・』

考えながら姫路署の玄関を出た時 その携帯屋の店長が柱の陰で
佇んでいた。
同じように姫路署に連れて来られていたが 
当然被害者としての事情徴収だった。

「おいッ」声をかけようとして立ち止まった。

携帯に向かい 何やら 悲壮な声を出していた。

「だから・・・ゴメン 家島の サヤカちゃんに会わす顔無いわ。。。それより 奴等 今に探し出すかも知れん・・・それは危険な奴で・・・」

聞くとは無しに 聞こえてしまった。

『果て? 家島・・・サヤカ・・・・どこかで聞いたような。。。』

「おい携帯屋」
電話を終え ガックリ肩を落とす店長に声を掛けた

ぎょっと振り向きながら「あ、さっきは 有難うございました・・・」
ヒロシにペコリと頭を下げた。顔面は蒼白だった
「お、おぅ。。 で、奴等 お前んとこに 一体何の用やったんじゃあ それに家島がどうのこうのて 一体何じゃぁ」 


 日付が変わろうとしていた。
 4月には珍しい冷え込みのあと 湿気混じりの暖かい南風が吹き出した。

 何やら とてつもない嵐の前触れだったのかも知れない・・・・


         つづく