小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編25

山頂にある神社社務所を出た 佐々木淳一は携帯を取り出した。
ディスプレイの時刻を見やり、役員会議中か・・・
一瞬躊躇しながらも
相手 田嶋総業 高城常務の番号をプッシュした。

 高城常務から依頼されていた あの男の消息を探していて
ついに 今の居場所を突き止めたのだ。




神主との会話・・・・・

「その青年なら 隣のタケ島に居りますがな、タジマさんの遠い親戚の子らしいですなぁ・・・」
「タジマ?」
「へえ、田んぼに山ヘンの鳥と書いて田嶋・・・少し変わり者ですが、腕の或る漁師やね」
茫洋とした雰囲気の神主が、さらに続けた
「しかしまぁ、きょうびの子にしては珍しく骨のある子でしたなぁ
1トン神輿を殆んどあの子が担ぎ上げ 坂を下ったようなもんです」
余程この話を繰り返したいのか、先ほどから何度も聞いた。
遮るように質問を変えた
「タケ島にはどのようにしたら行けますのや?」
「定期船はあらしまへん、夕方には通学船が出るさかい、それに乗っけてもろうたらよろしいがな」
その後の会話で、探している男であるとの確信を得た。
タケ島に渡ってまで確認する事も無いだろう。
ようやく高城常務に知らせられる情報を得た・・・との
安堵感が全身を包んだ。
あと驚いたのは 名前の出た“田嶋”
なんらかの縁のある 田嶋家なのだろうか・・・
 高城常務とは親しいが、田嶋総業社長とは あまり面識がなかった。
「これも確認すべき要件だな」


「・・・・」
案の定 会議中なのか留守電設定にされてある。

仕方無い・・今にも降り出しそうな空を見上げ、フェリー乗り場に急いだ。

神社からの坂道の途中で妙な三人組とすれ違った。

“?!”
元刑事の嗅覚が働いた。

『変な取り合わせじゃないか。中東系の外人と 細い目、角ばった顔・・おそらく朝鮮系二人・・・』
そこまで考え 
『あッ』
心の中で叫んだ。

昨年の夏 大阪鶴橋の裏通り・・・
まさに先ほど探していた男と殴り合いをしていたグループの一人だ。
殴り合いと言っても その男に一方的にやられていただけで、
その時互角に闘った男は テロ組織のアジア支部リーダー格であり、
 今は大阪府警に身柄は拘束中だ。

 昨年末の騒動にも 今の男が居たのではないのか?
 で、あの男を追って 家島?
 そして やはり神社?

『しまった!』

引き返しかけた時、いきなり【ボンッ!】
軽い地響きがし、前方の視線から黒煙が出ているのに気付いた。
あの方向は 島に唯一の交番が在ったはずだ。

 嫌な予感に襲われ 坂を駆け降りた・・・

 
             ※

「ほたら何かい、あの漁師に縁のある男が 外人にタマ狙われてるから助けに行きたいてか?」
竹川組組長 竹川正人のだみ声が響いた。
ヒロシは 横で一緒に立つ島野若頭と共に 精一杯 頭を下げた。
「へ、へいッ・・・」

「で、なんぼのシノギになるんや」
革張りのソファー、悠然と足を組み変え煙草を銜える。
すかさずライターを差し出すヒロシ。
「いえ・・・稼ぎは・・・一銭にも・・・」
「朝っぱらから、なに眠たい事 歌ってるんじゃ」
組長の声が シーンと静まった部屋に響く
「しかし、組長・・・」
必死に何かを訴えようとヒロシが一歩前に進む。
「まだ 寝ごと言いたいんかぁ」
ヒロシを睨みつける竹川正人。

「親父 す、すんまへん・・・」
島野若頭が ヒロシの頭を押さえ付け下げさせ、腕を引っ張り 部屋を出ようとした。

「島野、お前だけ下がれ、ヒロシ・お前はちょっと、残れ・・・」

「へぇ?しかし親父さん・・・」
島野がヒロシをかばいながら 前へ出る。

「島野 ワシの声が聞こえないんか?」
「あ、いえ 聞こえますがな。しかし・・・」
「あ、いらん心配すな 少し用があるだけや、すぐ終わるがな」
「そうでっか・・・」
渋々部屋を出る島野。

『さて。。。』
島野若頭が出るのを見届け おもむろにヒロシを見つめる組長
体を硬直するように 思わず身構えるヒロシ・・・

が 組長から次に出た言葉は 以外なものだった。

「それで 勝算はあるのか、もう少し詳しくワシに話してみんかい」

「は、はぁ?・・・」


              つづく