小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編26

軽い爆発音と共に、黒煙を発見した情報屋の佐々木淳一は 
息咳切らし転がる様に坂道を駆け降りた。

駆け降りながら 
あの男の手掛かりになる“ダダダ下り祭”での事や、 わざわざ神社への道案内をしてくれた
年配の巡査の顔を思い浮かべる。

「ワシ、来月の誕生日が来ると無事定年を迎えますねん」
島民の無事を祈り、潮風と共に歩んできたであろう実直で素朴な顔がクシャクシャな笑顔になったのは
つい数時間前の事じゃないか・・・




 坂道の終りにある大鳥居をくぐり抜けると
ようやく海岸に沿った県道に出る。
 山影の岬を回り込むと 交番まで直ぐだ。

空を見上げる。

曇り空から時おり大粒の雨がしたたり落ちたり 
止まったりを繰り返しては居たものの、黒煙は 広がっては居ない。

単なる ボヤで済んで欲しい。

久しぶりの全力疾走に、心臓が暴発しそうになる。
視界が真っ白になり、耳の奥は何か詰まったように“無音”になる。
足ももつれて来た。ハアハア・・・

あと数十メートルのところで ついに立ち止まり、両手をヒザにつきしゃがみこむ。。

「くそッ」あと少しだと言うのに・・日頃の運動不足を悔やむ。

やっとの思いで岬のカーブを回ると
交番の前には 人垣が出来ていた。

やはり火元は交番だったのだ。

が、地元の漁師であろう男たちにより 火は消されていた。
しかし、肝心の巡査の姿は見えない。

力を振り絞り 交番前に駆け寄る。

あれこれとテキパキ指示する男を見つける。
地元消防団の団員なのか、番の文字が大書きされたハッピを着込んでいる。
背中がやけに広い。日焼けした顔は赤銅色に輝いている。

「先ほど、ここの巡査にお世話になったものです。で巡査は無事でしょうか」

このクソ忙しい時に 一体お前は何者だ
 とでも言いたげに

「あっちを見ろ」
と 言わんばかりに首を振る。

その方向・・・

! ぐったりしながらも自分でそろり歩いている。
なんとか無事か。 
しかし数人の男たちに担ぎ上げられ
急ごしらえの担架に乗せられようとしていた。

「今から仲間の船で 姫路の病院に運ぶけん」

「おーい 軽トラはまだかぁ」
「今 取りに走ってますので」

怒号が飛び交いながらも 秩序は保たれているようだ。

佐々木は 元大阪府警の刑事だった事を告げ、
巡査に話を聞きたいのだが・・

男にお伺いをたてる。

今の立場では この男が現場のリーダーなのだ。

「そらあかんで 元刑事さん、今 話はおそらく無理やろな。なんなら病院まで付いて行くか、それより・・・」
一瞬 言葉を飲み込んだ。

「何者かに 腰の銃を奪われている・・・」
佐々木の耳元で小声でささやく。

「なんですって!」つい大声を上げる。

「しッ」男がたしなめる。

島の住民に今以上 不安を広げる訳には行かない。

「姫路本署への連絡は?」
「それが・・・」男が顔を曇らす。

「さっきから 電話が通じない。勿論携帯も」
「そんなぁ さっきは・・・」
慌てて 胸の携帯を取り出す。

しかし佐々木の携帯の表示ディスプレイにも
 圏外の文字が
しっかりと 表れていた。

「はッ!」
坂道ですれ違った 三人組の顔が浮かぶ。

「神社だ 神主が危ないっ」

つい 叫んでいた。


          つづく