小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編27

家島諸島の内、最も大きい島「マツ島」
そのマツ島にある マツ島神社
神主の 三好守信(みよしもりのぶ)は朝から立て続けに来客を受けた。
それも 2008年 “ダダダ下り祭”の あの青年に関する問い合わせだった。



『ほう・・偶然とは言え、めずらしい事もあるものじゃな』
ただ・・・目の前に対峙する者たち。。。一見日本人のようだが
どうも違う二人と、一人は中近東系の外人だ。
『妙な三人の組み合わせじゃないか。。。』
その者らから発する“気”・・・
最初感じた、なにやら得たいの知れない邪悪な気が、
ますます募って来るのを感じ取った。。

「だから オジサン、この男 島のどこに居るの?」
真ん中の一人が言った。
先ほどから この男だけ喋っている。他の二人は黙ったままだ。
おそらく日本語も解らないのではないか。

「お、オジサン?。。。居場所を聞いてどうしたいのだ」
三人の目を見据える。
視線からそらし、うつむいていた。

『うかつに教える事は出来ないな・・・』
そう確信した。
白衣の襟を整え、袴の紐を締めなおした。
「貴様らに教える必要など 無い」

「何だと。。。」
真ん中の男が掴みかかろうとする。

若い頃より 合気道を習っていた 三好守信は 
咄嗟に払いのけた。

そして
丹田に力を込め、全身の“気”を集め、腹の底から声を絞りだし、一喝した。

神聖な場所で 何をする 帰れっ!」

弾かれる様に三人組が飛び下がる。

「クソ 覚えてろ・・・」
言いながら 逃げるように出て行った。

             ※


竹川組長がヒロシに問わず語りの様に喋り出す
 
「あん時 ワシは三代目のボディガードじゃった。明石沖で三代目のクルーザーで釣りを楽しんでいた時、天候が崩れ・・」

初めて聞く話だった。

天候の崩れが予想されて居たが、三代目の命令で
周囲の反対を振り切り、強引に海に出たらしい。
一般人と違って ポッカリ空いた時にしか わしらのレジャーはないのだ。
天候は選べない。
で、案の定 強風と高波で 海釣りの一行らは 海に放り出されたらしい。

荒れ狂う 海原。
転覆したクルーザーにしがみつき 漂流するだけ。
夜の帳が下り暗闇が支配する 荒涼たる風景。
助けの船など 近づきたくても 普通なら来れない程
海は荒れていたらしい。。

とその時 近づく 一艘の小船

荒れた海をものともせず、高波に見え隠れしながらも船が近づき、
ふんどし一丁で漕いで来たその若い船頭に助けられたって事よ。。

「その船頭が あの家島の田嶋さん・・・」

竹川は 深く頷き
「その後の三代目 そして今のワシがあるのも あの人のおかげっちゅう事や」

そう言ってからしばらく考え込んでていたが

「これ お前に預けておく」

そういって放り投げる。
「チャリンっ」空中で音が鳴る・・

宙に舞ったそいつを右手で掴む。

駅前のロッカーの鍵だった。

「ええか、めったな事では 使うな。どうしてもココと言うときにだけ使え」

「ハジキかたは、知ってるわな」

「はっ」神妙に頭を下げる。
ロッカーの中に潜む 黒光りし、ずしりと重いそいつの正体を察知した。
「行くなら早よ行け。嵐が来て フェリーが欠航しては何もならんぞ」

「す、すんまへん組長」

頭を下げ、背中をドアに付けたまま 部屋を出た。


         つづく