田嶋総業役員会議室では
前日に行なわれた大阪府議会議員選挙。
立候補し、見事に初当選した田嶋社長の祝勝会が行なわれていた。
一通りの仕事をこなし、ようやく一息ついた高城常務は内ポケットの携帯を取り出し、着信暦を確認する。
胸の携帯が震えていたのは確認していたが、
田嶋社長の挨拶中だったのだ。
例の情報屋の名前が表示されていた。
『手掛かりを掴んだのか!』
周りに役員が居ないのを確認しコールボタンを押す。
「・・・・・・・・・・・」
だが、
「・・電波の届かない場所に居られるか、電源が入ってません・・・」
の虚しい声が返ってきた。
その後 何度かコールしたが 同様だった。
「!」何かある・・・
妙な胸騒ぎを覚えた。
家島か・・・
朝 テレビの気象ニュースで この時期にしては珍しい 低気圧が
沖縄地方南西部や 瀬戸内地方 各地で幾つも発生し、
うち一つは瀬戸内を通過し、京阪神地方も夜遅くにかけ 暴風雨に見舞われる可能性があると注意を呼びかけていた。
海・・・そして離れ島・・・・か。
フイに白浜冷蔵冷凍倉庫 坂本社長の顔とクルーザーが浮かんだ。
呼び寄せておくか。。。。
そう確信すると 登録してある坂本社長のナンバーをスクロールした。
※
姫路市総合病院 裏玄関口でしゃがみこみ、
携帯とニラメッコをして居た 鶴野健太は
唸るサイレンの音と共に
目の前に救急車が滑り込んで来たので思わず立ち上がった。
病院側の扉が開き、飛び出してきた2,3人の看護師が
ストレッチャーをガラガラ押しながら救急車に走り寄る。
救急隊員が素早く降り、バックドアを跳ね上げる。
目の前のストレッチャーに乗せられた患者を見て
健太は「あッ!」と声を上げた。
仲間数人と共に参加した “ダダダ下り祭”の際、
何かとお世話になった家島の駐在署 巡査が真っ黒にすす汚れた制服姿のまま 乗せられていたからだ。
救急車から同時に降り立った 付き添い人は消防団の半纏を着込んで居る。
目と目とが合う。
“ダダダ下り祭”の世話役として指導や、特訓を受けた相手だった。
「一体何事ですねん」
「おッ あん時の青年。。。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
一部始終を聞いた 鶴野健太は 再度携帯を取り出し、
仲間に片っ端から連絡を始めた。
「家島が危ない また 集合や・・・」
※
家島マツ島神社社務所を飛び出し、しばらく駆けた3人組。
坂の途中で リ・スンヨクは キムジョナンの背中に声を浴びせる。
「ナゼ逃げる。あのような男など・・・」
その声に立ち止まり 振り向くキムジョナンは いきなり拳(こぶし)をリ・スンヨクの腹に見舞う。
「うッ。。。」
うずくまる、リ。。。
「黙れ 奴から発する得体の知れない“気”がお前などに解るか」
言いながら 神社内で感じた 妙な呪縛感を想い出し 思わず歯ぎしりをした。
『俺ともあろう者が ナゼ逃げ出した・・・』
簡単に あの男の居場所を突き止め、さらに
島その物も 手に落ちると思われたのだがそうは行かない
苛立たしさと 前途の
多難さが、脳裏をよぎった。
「二人とも内輪もめはダメ・・・」
ローレンスが間に入る。
その時 スピーカーを通して チャイムが鳴り響き、
「島民の皆様にお知らせします・・・」
女性の声が響いた。
「静かにッ」言葉の解る キムが二人に命じる
「電話回線が不通になりましたので 久しぶりの有線放送です・・」
そのあと 急速に発達し、近づく低気圧情報などを流して居た。
「秘かに電話線や、携帯のアンテナを破壊しさらに
交番を襲った俺らの情報は未だの様だ」
一安心し、ニンマリするキムジョナン
「早い事 あの男を見つけるか」
言いながら 松林の向こうを見る。
松林の間から 遠く 学校の校庭が見えた。
数人の学童の姿も見え隠れしている。
「!」
「良いことを思いついた、行くぞ」
つづく