小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編29

サヤカが家島に初めて来たのは まだ小学5年だった
それから 月日が流れ4月から とうとう中学3年生になった。

だが生徒として校舎の門をくぐり抜けたのは、
中学一年の5月以降 久しぶりの事だった。



 
いわゆる登校拒否生徒ではあったが、その原因は学校側にはなかった。
同じ敷地内 隣の小学校と中学生 全校合わせても 僅か三十人程の生徒数。
姫路市内から転校してきたサヤカに対し、素朴でみんな優しかった。
教師も同様に皆、優しい。
ただ 突然家族を失い、祖父との二人だけの島生活に放り出された事。
姫路時代とは180度違う状況や環境に加え
将来に対し漠然とした不安を感じ、
なんとなく学校へ通う気力が喪失してしまっていたのだ。


そんなサヤカに対し、離島のサメ狩り専門の漁師、祖父の秀治は 
説教や小言など 一切言わず見守ってくれた。
65歳とは言え 赤銅色に日焼けした精悍な顔つき、
身体は鋼(はがね)のような筋肉をいまだに保持している。孫娘に対して一人前の人間として扱った。
昨年の夏過ぎからは 船に乗せ 釣りのイロハから本気で教え始めていたのだ。

最初は嫌だった離島暮らしも、そんな祖父と暮らす事で徐々に慣れ始めた。
都会での暮らしより、島での暮らしが感性に合っていたのかも知れない。

何より 潮の香り 大海原を吹く風 キラキラ輝く太陽
青い波は サヤカを虜にしていた。


将来 サヤカを後継者にでも・・・
そう考えているのでは?そう云う風にとれる秀じぃ
の態度や言葉を感じ始めるようになった。

それも 悪くないかぁ 

サヤカも本気で考え始めた時、ゴンことコージが転がり込んで
(というより 秀じぃがすくい上げて)きたのだった。
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初日 久しぶりの学校授業だったが、なんとかついて行けた。

クラスの生徒は サヤカ以外、ここマツ島の島民だったが 久しぶりのサヤカを暖かく迎えてくれた。

それどころか、あの過酷で危険な“ダダダ下り祭”を乗り越えた英雄は サヤカの親戚!との話が既に知れ渡っており、
担任に連れられ教室に入った時、どよめくように大きい拍手で迎えられたのだった。

 昼の休憩時間も終わる頃だった。

校内放送のスピーカーが聞こえた。
「タケ島への通学船は 午後から悪天候が予想されますので、繰り上げ午後1時半に出航します」
 放送部員だろうか、たどたどしいながらも、しっかりしたアナウンスだ。

 「おーッ じゃあ帰り仕度せんといけんがね。いいなぁー」
男子らがはやし立てた。

             ※
その時 校舎の影で潜んでいた キムジョナンは
同じ校内放送を聞いた。 閃くモノがあった。
 リストウォッチを確認する。
 
不敵に笑いながら
『そいつは都合良い。まだ時間はある。一仕事してから、その船も頂くとする』

背後の二人に合図すると 校舎内に忍びこんだ。


          つづく