小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編31

「えっ 家島・・・」
高城から 家島について聞かれた 田嶋社長は あきらかに
動揺の表情を見せた。

「高城君 その話、今で無ければダメなのか」
「築港冷凍のあの青年 家島に居るのですわ」

役員会議を終え 社長室に二人して戻った時、高城の方から切り出した。
情報屋との連絡がプツリと途絶えた今、自ら行動せねばならない・・・
そう予感がした。
その為にも いつまでも社長に隠し通すわけには行かない。



「家島と云っても 結構広いんやが どこに居るというのかね」

「タケ島の田嶋と言う漁師。。。あ、まだ 確実な情報ではないのですが・・・」

「タケ島・・・田嶋だとぅ・・・」
選挙演説で しわがれた声だったが だみ声が社長室に響いた

「今 思い出したのですが、確か 20数年ほど前のお盆、社長のお供で帰省した島・・・確かタケ島だったですね」

さらに 社長の顔を覗き込みながら続けた

「あの後 私は京都営業所のゴタゴタ処理に廻され 三年ほどの間、家島どころか 社長とも離れて居り 気がつきませんでしたが、
あれ以来 家島の話題をお聞きする事はありませんでした」

「・・・・・・・・・」

しばらく うつむき 沈黙していたが ようやく

「ウメ島問題や・・・・」
吐き出すように言葉が出た。

「はぁ? ウメ島」家島との聞き間違いじゃないのか
もう一度聞き返した。

「同じ家島諸島にある ウメ島や、ワシら先祖の墓がある。。。
正確には 今ではコンクリートの底に埋まってるがの。。。」

あッ そう言えば・・・

古い記憶というか社会的にも話題になった騒動が呼び覚まされた


20数年前 産業廃棄物処理場をウメ島に建設 との問題で
旧島民と行政 さらに建設業者とのあいだで かなりの期間揉めた事件だ。
家島諸島とは云っても はるか沖合いにある 荒れ果てた無人
に 姫路 都市圏の産業廃棄物処理場建設の話が降って沸いたのだった。
 明治頃 漁場や田畑の土壌の悪さから 家島本島や、隣のタケ島に
ほぼ全員 移住を果たし 無人島にはなっていたが
先祖の墓は依然として存在していたのだった。
島内でも 賛成派 反対派の真っ二つに割れ 長年のあいだ怨恨が続いたと言う・・・ 
・・・結局 地盤が 建造物に耐え切れない事が判明し 
半分以上工事を残し 中断したままの筈だった・・・

 田嶋総業とも若干関連のある出来事だった。
田嶋総業関連の 土砂運搬船業から 土建業 合わせて当時 数十億以上の大仕事だった。

「当然の様に 田嶋社長は 賛成派。。。」
 と 云うより まさか。。。。」

『まさか 貴方の方から 建設招致を仕掛けた・・・』
と言いたかったのだが それはさすがに飲み込んだ

「高城君 ワシは その まさか・・・の大馬鹿者だよ」

そう云いながら 机をコブシで激しく叩いた

「ワシも 騙された方なんじゃ」
しばらく 重い空気が流れた

次に出た言葉に さすがの 高城も うろたえて居た。

「あとで判ったのじゃが ただの産業廃棄物処理場じゃあ無かったのだ 原子力発電核燃料の廃棄施設計画だったのじゃ」

「なんですって・・・しかし 計画は中断 何も埋まっては居ないんでしょう」

しかし社長は 期待に反して 苦しげに かぶりを振った。。。

「絶対の秘密なのだが・・・ 試験的に 100キロ程 プルトニウムが埋まっとる」

 「そ、そんな・・・」
一瞬 言葉を失った。

 そして 

 落ち着け 落ち着け・・・
 何度も自分に言い聞かせた


          つづく






  追伸

 今更ですが 狂二シリーズは フィクションです。
家島諸島は実在しますが 
 その他 登場人物 事件設定など 架空の物語です

 (-_-;)