小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編32

姫路市総合病院 緊急処置室の扉の前にいつしか
姫路署の刑事たちが集まっていた。

家島諸島マツ島の駐在所に於いて、爆破事故発生、それに伴い巡査部長負傷・・・
との消防本部救急車からの無線連絡が入っていたのだ

緊急処置室のベッドに寝かされ、点滴の針を腕に差し込まれ、
酸素吸入器を口に被せられた田中巡査は 朦朧とした意識から
ようやく眼が覚めた。
『はッ!此処は?・・・』
田中を覗き込む看護師の眼 次に 規則正しく小さい穴の開いたボードの天井が見え、顔をねじると
ベッドまわりをビッシリ埋め尽くす機械、そしてそれらに繋がるビニールの透明チューブが見えた。

『そうか、此処は病院なのか・・・はッ!しまった。島には病院は無い。いつの間にか 姫路市内にでも運ばれたと言うのか。。』





そして数時間前の出来事を少し霧のかかった頭で反芻してみた。

『こ、このままでは 大変な事になる!何とかしなくては・・・』

酸素吸入器で覆いかぶされた口を必死にパクパク動かし、点滴の
刺さっていない右腕を看護師に向かって振ってみせた。

「島野先生! 患者さん気がつかれたようです。それに何か、言いたそうにされてます!」

                ※

[・・・・・・・・・・・・・・・・]
名刺の 姫路署 刑事部捜査一課 加納課長の携帯は 留守電だった。

しかたなく 代表の番号を回す。
「はい 姫路署 どうされました?」

「あ、はい 今野と申します 昨夜 店内で騒動があった時には、お世話になりました。携帯ショップ ゼロベースの・・・それでその件で加納課長に緊急に連絡したい事が。。。」

「はい しばらくお待ち下さい」
事務的に 淡々とした声だった。

「はい 捜査一課 あいにく加納は出かけてますが、今野さん どうされましたぁ?」

太い声が 響いた。
加納課長の横で事情調書を筆記していた眉の太い
大柄な刑事の顔を思い出した。
多分その人だろう。だが名前は忘れた。

「あ、はい すみません。直接会って お知らせしたい事があるのですが・・・で加納課長は何時ごろ戻られます?」

「今、課の殆んどは 病院まで出払って しばらく留守なんだが、どのような事で?」
続けて受話口から太い声が響いた
「今野さん あいにくの天気で、ご足労でなければ こちらに来られませんかぁ」

横で心配そうに覗き込んでいる ひろ子の眼を見た。

しきりにうなずいている。事は緊急事態なのだ。

「すみません じゃあ、しばらくしてから伺いますので・・・」

「しばらくしてから って ナニ呑気なコト云ってるのん」
ひろ子が噛み付いた。

その前に 確認したいことがあるんや。

受話器を置くと 再びPCを起動させる。

『変な三人組の外人に狙われる “彼”の正体て 一体・・・』

少し前から ネットの掲示板で 彼 或いは 
記憶喪失の背後にある事件 あるいは事故に繋がる情報を探していたのだった。

新聞の記事による情報なら すでに12月 11月まで遡り確認した。
が、特にコレと言う事故や事件は見当たらなかった。
これは?と思える事故や事件は当然のようにありはしたが、
何ヶ月も記憶喪失の男を漂流させるようには思えない類いの事故、事件だった。

あと 頼りになるのは 日本最大といわれる 匿名のネット掲示板だった。

マスメディアが隠す出来事 事件の数々を 匿名ゆえ真実の情報がひょっこり露出することもあるのだ。

過去倉庫と呼ばれる少し前の投稿保管場所に行き、
その場所から膨大な数の スレ 投稿内容から 一件ずつ探索し始めていた。
 
それは 砂漠に落としたリングを見つけるぐらい困難で根気のいる作業だった。

 が、ある日 なにやら閃くものがあり、あるキーワード
(大阪 うやむや事件 )で検索をやり直し、あるスレに到達していた。

今回で 三回目になるが そのスレをみたび読んでみた。

[・・・・で、昨夜つーか 朝方 えらい数の白黒パンダや赤唐辛子走り回っていたけど 何の事件か誰か知りまへん?あ、ちなみにココ大阪の○○の海の近所]


投稿日時は 2007 11月16日 AM6:23 になっていた。    

その後レスは 

[有閑(夕刊)にでも載るんとちゃいまか それまで松
ベシ]

そのようなレスが延々と続き、

[あ、今 有閑トー着 広げたけど なんもナー氏]
[それ東京版だろ]
[レキとした オサカ番]
[あ、内も今夕刊着たけど 乗ってねぇ・・]
[それて オカシクネぇ 何処かの陰謀やん、テレビ、ラジオのニュースなどマスゴミにもノテナー氏(載って無い)]
[フツーあんだけ白黒パンダ走れば なんかあるハズやん]


[おしょーが津(正月)来たけど とーとう うやむややね]

結局 その掲示板は 2008 1月1日で終了していた。

・・・・白黒パンダ 勿論パトカーのコトだ。

スレを立てたのは どうやら学生らしい、
投稿にあった近所。どうやら彼の家の近所ではないらしい。現場は倉庫や、工場がひしめき合う所で夜間は殆んど無人になる場所のようだ。

[で 1 よ 本当にハケーンしたのか]
のレスの後

[嘘じゃなーい クルマの中で彼女と××をしてる時ずら。。]

ガセネタではない気がした。

 

『やはりこの情報。これじゃないか!』そう確信し
 姫路署に向かう前に その部分をプリントアウトし、懐に入れた。

「あ、サヤカんち やっと電話つながったけど、今 学校やて、そういや
今日から行く云ってたもんなぁ」

ひろ子が慶一の前に座った。
「で、彼が出たのか」
「いえ 秀さんのほう。 嵐が来るから 早めに漁を切り上げたんやて」


「学校に電話して呼び出してもらうわ」

「学校の番号聞いてるのか?」

「ううん、でも104で聞いたらわかるやん」

104で聞いた後 学校の番号をプッシュしてたが

「あれ おかしいなぁ ウンともスンとも云わへん」

 
「嵐か・・・」慶一がつぶやき、窓を見た

窓の外は いつの間にか真っ黒な雲が覆い着くし、
少し大きくなった雨粒がガラスをたたき始めていた。

 遠くの方で 稲光も鳴った。




       つづく