小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編35

「みんな 雨合羽の用意はいいかぁ」
サヤカが空を見上げ、タケ島へ帰る学童を並ばせている時だった。
屋根付き渡り廊下の影から 男が飛び出した。
片手で用務員の首を巻きつけ
にじり寄って来た。

「おい 船 わしらも乗せてくれるか」
用務員の顔は蒼白になり 額には汗が浮かんでいる。
目はうつろに視線が定まっていない。両手はダラリとなっていた。

「きゃあーッ」
たまらず学童らは ありったけの叫び声を上げた。




「静かにせよッ!!」男が怒鳴った。

「騒ぐと こいつの首 へし折るぞ」

「う・・・・・」
学童らは 半べそになりながらも 黙った。

「お姉ちゃん・・・」後ろの子が
サヤカの合羽のスソを引っ張った。

「ちょっとぉ、何やの」
不思議に落ち着いていた。 気丈にも相手の顔を睨んだ。
「黙れ このオヤジどうなっても良いのかぁ」
さらに 首に巻きつけた腕をねじる

「クッ・・・・」
用務員が 苦しそうな声を絞り出した。

しばしの間 無言のままニラミ合っていたが

パーン!

トラックのタイヤがパンクで破裂したような音が鳴った。
続けて 悲鳴も聞こえた。

職員室あたりが 騒がしい。

「えッ な、何?」

やがて「アニキお待たせ」
一人の男が駆けつけて来た。

「もう済んだのか」
「はは ちょろいモンだね。生徒と教師合わせて 2,30人
全員を 縛り上げ 閉じ込めて来た」

「電話回線は?」
「バッチリ」云いながら両手をクロスさせる。

『えッ 全員 こいつらの手に・・・
私ら孤立?』
サヤカの膝がガクガク震えた

「じゃあ船を頂戴しに行くぞ」

「見張り ローレンス一人で大丈夫か」

「こんな時間 誰も来ないだろうて」

「じゃあ お嬢さん 船まで案内してくれるかな」
サヤカに向かって ジロリ と睨む。

『な 何やの これ・・・夢なら 早く覚めて・・・・』

心の中で叫んだ。

同時に カバンの中に “あの携帯”を忍ばせて居たのを思い出した。。。

               ※
「しかし 天気予報が気になりますな」

田嶋総業系列 築港冷凍の会議室で 
高城常務、中岡社長それに
白浜冷凍の坂本社長は瀬戸内の地図を広げた。

高城常務の予感で 坂本社長と彼のレジャーボートを呼び寄せていたのだ。

「坂本君 自信ないかね」
「とんでもない。風速40メートル級の台風なら 経験済みですら。
そん時を思えば・・」 

 真っ黒に日焼けた顔が笑った。

「しかし あの青年が生きているとは。。。」
「いや まだ確定ではないのだ、肝心の情報屋とその後連絡が。。。」
高城の顔が曇った。

「ところで竜さんは?」
「夜勤明けで まだ寝てるようなんです。
 携帯鳴らしてみたが 留守設定に」
中岡社長がお茶を一口飲み 言った。

「5ヶ月ぶりか・・・わしらが揃うのは」

高城常務がポツリとつぶやく。

そして 何となく背中が震えた。

『一体この胸騒ぎは 何なのだ』

さらに

プルトニウムの処理。。。さぁーて どうすべきかのぅ』


 この懸案事項も 重くのしかかっていた。

 全員の顔が さらに曇った。


          つづく