小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編38

マツ島神社を目指して歩きだしたヒロシだが、
荒れ模様の空を見上げた。
“例のブツ”や着替えが入ったボストンバッグ、
それに着慣れないスーツを考えた。
先に予約をしておいた民宿に向かう事にした。
「早く着替えを済ませ身軽になりたいのぅ」

確認の電話をすべく、携帯を取り出した。

「!」
「くそぅ、この島て 圏外なのかぁ?」

携帯の画面には虚しく 圏外の文字が表示されていた。




「ま、何とかなるやろ」携帯を内ポケットに仕舞い、
携帯屋に地図を書かせたノートの切れ端を広げた。

島唯一の学校の隣に、目指す民宿があり、
フェリーターミナルから比較的近いようだ。


例の三人組が 立ち寄りそうな神社に一刻も早く駆けつけたいが、
左手に傘、右手にボストンバッグ・・・
両手が塞がったままでは 
『どうしょうもないがな』心で毒づいた。

海と山に囲まれた素朴な島
本当に奴ら来るのかぁ。
否、もう来ているのかも。

しかし 何故? 何の為・・・

風に乗って 潮の香りが鼻先を付いた。

歩き始めた途中、雨に打たれ、小ぢんまりした海水浴場の砂浜が見えた。

ガキの頃の海水浴の思い出が 蘇った。
二度とは帰れない 無邪気で平和な 日々の暮らしが
この俺にも あったんだな・・・

 遠い世界に思えた。

              ※

通学船が停泊する岸壁は 校庭裏から海側に続く小道をしばらく
歩いた場所にあった。
途中 助けを呼ぼうにも 人家やひと気の無い道が続くばかりだ。


「おいッ 船の場所まだなのか」
用務員の小父さんの首根っこを絞め付けたまま 先頭を歩く男が怒鳴った。

男が怒鳴るたび サヤカの後ろを歩く子らに緊張が走った。

子供らの一番後ろでは もう一人の男が無言でニラミを効かせている。

「子供ら 怯えてるやないの、うちら もう離してよ」
「黙れ しばらく付き合ってもらう」


男の口調に 妙なナマリがあるのに気付いた。

『アジア系には間違いないケド・・・で、奴ら何の為?』

観察する余裕と冷静さが戻っていた。

ダサっ・・・としか言いようが無い衣服を身につけていた。
上背は平均より 少し高いぐらいか。

しかし 胸の筋肉は張り出している。
ふた昔ほど前に流行った ワンポイントマーク入りポロシャツの胸元は膨らんでいた。

『しかし・・・いずれも ゴンほどでは無いな。。。』

ゴン・・・助けて・・・・・

胸の奥が キュッと鳴った

思い切り 叫び声を 上げたくなった。

ぜぇったい 来てくれる そして恐怖のどん底に落としているこいつらを
コテンパンに懲らしめてくれる・・・
そう・・あの時の様に。。。』

男らの視線が離れた隙に カバンから 
“例の携帯”を素早く取り出した。

そして雨合羽の下、通学用ジャージの尻ポケットに入れ 
何時でもスイッチを入れられる様に スタンバイした。

そのまましばらく歩いた。
  
やがて 潮の香りがきつくなって来た。

 荒れ狂う一歩手前の 海が見えて、
 
 通学船が一隻 揺れていた。



         つづく