中庭側に出た佐々木淳一。
雨に濡れそぼった雑草に足をとられるのを注意しながら、
桜の木陰に移動した。
頭上でカサッ と音がした。
桜もすっかり散り果て、今や葉桜になった
桜の大木に小鳥が雨宿りしていた。
思わぬ闖入者 佐々木に驚いて、飛び立った。
不気味なほど 学校内は静寂につつまれている。
幹に添って体を職員室側に廻す。
「居た!」
職員室の机は片隅に寄せ集められ、出来た空間には
生徒、教師ら全員(多分)が床の上に座らされていた。
で、三人組は?
ぐるりと見渡す。
!?
居た。 しかし長身の色黒で彫りの深い顔立ち、外人らしき男 独りだけだ。
が、手には拳銃らしきモノをぶら下げ、教師、生徒らを威嚇している。
後の二人は? 職員室を見回しても 居なかった。
『どういう事だ』
「あッ」小さく声を挙げた。
袖を捲くり 時刻を確認する。
校内放送で言っていた 通学船の出航時刻だった。
「まさか後の二人は 船を奪いに移動したのじゃぁ、あるまいな・・・」
出航を待つ生徒らが居たとすれば。。。
『しかし、奴らの狙い・・・一体何なのだ。。。』
必死に頭の中を整理させた。
田嶋総業の高城常務に頼まれた “コージ”探しの
途中、見かけた奴ら。
不確定ではあるが、駐在所の爆破騒ぎ、拳銃強奪の疑い、そして
この学校の生徒、教師らの監禁事件。。。。
『青年ひとりの為にしては コトが大げさ過ぎるじゃないか・・・』
とりあえず・・・
教室内の 奴の始末だ。。。
こっちはワシを入れて三人か。 数の上では優位に立っている。
しかし、奴が所持する拳銃を考えると 数の優位など
まったくの無意味だった。
「うーむ」再び考え込んだ。
※
波に揺れながらも 通学船は待ってくれていた。
サヤカらの姿をみると 船長が「やあ」
とキャビンから出て来たが、用務員の首根っこを
捕まえながらの
不審な二人組みを見つけるなり 笑みは消えた。
船長を男二人が取り囲んだ。
「なんだぁ貴様ら」
「おい 船長 云う事を聞くなら 危害は加えない」
用務員の首に腕を巻きつけた方が云った。
その隙を見て サヤカは携帯の電源を入れた。
「!?」
「け、圏外??」
泣きそうになった。
男の一人がこちらを振り返りそうに顔を向けた。
慌てて携帯を尻ポケットに入れる。
「既にお前ら 危害を加えてるやないか」
昔は 漁師で今は島唯一の民宿をやっていると言う船長が怒鳴った。
歳は確か秀じぃと同い年 65,6だった筈だ。
しかし小柄ながらも日焼けした顔はまだ精悍だった。
「黙れオヤジ ウメ島まで行って欲しいのだ」
「う、ウメ島だとぅ 何の用だ」
「そうだ ウメ島だ 地図にはないが知っているのだな」
「この天気だ」
空を指差し、
「子供らが先だ、それに用務員、首が痛そうじゃないか、早よ離したれや」
「ああ、このオヤジ・・・ね」
「離してやっても良いが どこかに駆け込みされても 厄介。しばらく付き合ってもらう」
「じゃあ子供ら・・・その子らの島へ送り届けるまで待っててくれ モノの10分と掛からない」
「う・・・」
二人組みは顔を見合わせ、何やら知らない言葉で言い合いを始めた。
「朝鮮語だ!」
テレビニュースで民族衣装を着た女性アナウンサーのあの特徴ある
絶叫言葉と似ている。
「ヨシ 解った。じゃあこの子らの島へ行け、しかしワシらも乗り込む。そのアト ウメ島だ 分かったな」
「ウメ島?・・・」
昔 秀じぃから聞いたことのあるような・・・
だが、とりあえずは安堵した。秀じぃらの待つタケ島へ
何とか帰れそうだ。
しかし、その後 この時感じた安堵感は
いとも簡単に吹き飛んでしまう事など
知る由もなかったのである。
つづく