小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編42

「今野慶一さん、もう一度録音テープお借り出来ますか」
姫路署 捜査一課の応接室では刑事や職員達の出入りが激しくなっていた。

病院から舞い戻った捜査一課の加納課長に 今野慶一はフトコロから
ネット掲示板からプリントアウトした用紙を見せながら、
「大阪のこの事件と関連があるような気がするのですが・・・」

「では 拝見」
云いながらも 用紙をひったくるように受け取る。
しばらく目を通していたが、

「柴本君 コピーだ、それに公安にも連絡するように」
傍らに控えていた同僚刑事に言いつけた。




「やはり関連が・・・」
云いながら加納の目を見据える。
加納課長は ピクリとも表情を変えず、ソファーに深々と座りなおした。
「いや、関連があるとか無いとか 今のところ何も断定は出来ません。それに・・・」
しばらく詰まったあと
「それに ワシら地方の現場サイドまで 詳しい中味など何も流れて来ないんですわ。また上から 正式な命令が無いと勝手に動けないし」

「ただ・・・」
家島の駐在署の爆発騒ぎによる負傷事故との
関連がある気がするのだが。。。今野慶一に言いかけた言葉を飲み込んだ。

 しばらくして 先ほど無線傍受の録音テープを借りて行った職員と
恰幅の良い年配のスーツ姿が応接室に戻って来た。
白髪からは品の良い整髪料の香りが漂う。

「あ、署長」
スーツ姿を見るなり 加納課長は 立ち上がった。
今野慶一も慌てて、立ち上がりかけた。

署長と呼ばれた白髪のスーツ姿は 今野を右手で制し、ソファーに座らせた。

「今野慶一さんで良かったですかね。貴重な情報ありがとう」
続けて 加納課長の顔を見据え、

「加納君 事は重大だ。列記とした国際テロだこれは。先ほど政府に要件を告げ、海上保安庁 さらに海上自衛隊にも出動の要請をした」

「なんですって署長・・・」

応接室にどよめきが起きた。

「ただ・・・この悪天候。海は荒れ始めている・・
果たして無事に出動できるかどうかだ・・・」

応接室に、なにやら沈痛な空気が流れた。

               ※ 
その日 店の都合で 急なシフト変えの休みだったのは
何かの“力”が働いたのだ・・・

古庄多美恵は後日 幾人かの知人に 
「この世には理性や科学では計り知れない不思議な力が存在する・・・」
と 何度も繰り返した。


 急なシフト休み。ソファーでくつろぎ、テレビを観ていると 電話が鳴った。
なんとなく 閃くものがあり、慌てて飛びついた。



番号は非表示だがコール音が鳴っている・・・

つまり、“コージの携帯”だ

確信すると 受話器を持ち上げる。

「コージ・・・」
大声を発したくなるのをこらえて 耳を澄ました。

ところが ざあざあ・・・の雑音だけが聞こえ 人の声は皆目だった。

単なるイタズラとも思えず 受話器に集中した。

やがて ざあざあ・・・と云うのは 雑音ではなく、
海の音だと 気付いた。
漁船らしきディーゼル音も聞こえたのだ。

さらに耳を澄ませる。

かすかに 女の子の泣き叫ぶような声が聞こえた。

あの時 電話の向こうで 
「あっ・・・」と言ったきり
電話を切った 子だ・・・・
多美恵は確信した。

ソファーの向こうのテレビをリモコンで慌てて消す。

受話器を通して ハッキリ聞こえてきた。

「イエジマ・・・タケシマ・・・ウメシマ・・・・」

続けて 怒鳴る男の声がした

「黙れ 静かに座ってろ・・・・・」

ザアザア・・・・・・・

 雨音と波の音が重なり こちら側にも飛沫(しぶき)が飛び散りビショ濡れになりそうだった。

 しばらく そのまま聞いていたが

[プツ・・・] 切れてしまった。

受話器を置くと 田嶋総業 高城常務の携帯をコールする。

おそらく勤務中。。。
一瞬躊躇したが、朝方の電話を思い出した。

「イエジマに行った情報屋からの連絡が途絶えた・・・・」

確かその様な会話だった。

『やはりイエジマに何かある・・・』

高城は ワンコールで出た。

多美恵は 先ほどの電話の内容をかいつまんで告げた。

「何 タケシマ・・・ウメシマだと。。。」
電話の向こうで 明らかに口調が変わった。

「ご存知なのですか」
「ワシらもその島に行く準備していたところですわ」

「あの・・・」思い切って続けた
「もし宜しければ 一緒に連れて行って欲しいのですが・・・」

しばらく電話の向こうに沈黙が流れた。

やがて 
「この天候や・・・・海は かなり荒れます」
高城の絞るような声が聞こえた

多美恵は 何を今更・・・天候など・・・
と不機嫌になった。

「天候が何ですの、私 全然平気ですから」

大声で怒鳴ってしまっていた。

電話の向こうで 再び沈黙が流れ、
男らの相談する声が聞こえた。

やがて 
「分かりました。今から迎えに行きますので
用意は直ぐ出来ますか」

 用意など ものの10分で済ませて見せる・・・

慌てて電話を切った。


         つづく