小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編43

佐々木淳一は校舎内に再び舞い戻った。
消防団の二人に状況を説明する。

「元刑事さん、相手が独りの今、チャンスじゃなかろうか」
口ひげを蓄えた方が云った。若く見えるがもう40を
超えているらしい。
「バカ言え、島ちゃん 相手は拳銃持ってるんぞ」
なあ、佐々木さん といわんばかりに佐々木の方を振り返った。




「確かに・・・こちら。。。」
「あ、森田です、皆から森やん て呼ばれてるッす。この口ひげが島ちゃんコト 島岡」
「あ、どうも・・・佐々木と言います」
お互い初めて名乗りあった。
佐々木が続けた。
「森田さんの言う通り、奴の拳銃が厄介。何しろ子供らを人質に捕ってる今、うかつには動けん・・・」
「うーん。中には骨のある奴 居らんのかのぅ」
口ひげの島岡がつぶやいた。

「そう言えば 体育の先生、結構良い体格やったが、期待は無理かな」

「無理 無理・・・やっぱ相手は拳銃ぞ・・・」

三人は またもや沈黙した。

              ※

「御代わりは良いですかぁ お客さん」
あ、どうもご馳走様。云いながらヒロシは箸を置いた。
久しぶりに、ゆっくりと味わえた昼食だった。
地元の魚料理に、熱い味噌汁・・充分すぎる馳走だった。
もう少しくつろぎたい気持ちもあったが、例の三人組を思い出すと
居ても経ってもおれない気持ちになった。

いつものジャージに着替え、出かける準備を始めた。
組長から預かった “ブツ”を確認し、腹巻きに忍ばせる。

「女将さん 神社へ参る前に 学校へ寄ってみますわ」
一階 台所奥の女将に声を掛ける。

「あいにくの天気に、退屈でしょう 釣りも出来んと・・・」

民宿には 海釣り会の下見と、予約していた。

「あ、そうそう 風が強うなったら 傘など役に立たんけぇ、合羽を着て行きなはれ。亭主のやが・・」

「すんまへん」

合羽を着させてもらった。

潮やゴムの匂いに混じって 染み付いた焼酎や、煙草の匂いが鼻をついた。

一瞬 はッ! と 懐かしさがこみ上げて来た。

親父・・・・・

極道になる・・・そう言って 16で飛び出し、かれこれ8年。。。

ヒロシとは50程の齢の差があったから、親父も74になる筈だ。

老いた 親父の背中が瞼に浮かんだ。

 「じゃッ 行って来ますけぇ」
感傷を振り切るがごとく 声を掛けた。

「神社へは 学校裏の坂道からも 行けますけん」

               
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

民宿を出、直ぐの路地を曲がると 学校の裏門への道が続く。

「学校へも寄ってみる・・・女将に云ったけど 用も無いしのぅ」
寄らずに 神社へ向かう事にした。

教えてもらった通り 校庭横の坂道を登り始めた時だった。

「それにしても 静かすぎる学校・・・」

目を凝らして 校内を見やった時、
三人の男らが 立ったりしゃがんだりし、教室の様子を窺っているのが見えた。

一瞬 例の三人組かと 緊張が走ったが、違った。

「これは!何かある。。。」

裏門から 校内へと 入って行くことにした・・・・






           つづく