小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編45

着込んだ雨合羽が風に揺れた。気が付けば和船を繋いだ浜まで一目散に駆けていた。
荒れ狂い始めた波で洗われる浜辺には 勿論人影どころか、一羽の海鳥すら居ない。
“よろず屋、彦さん”から 
サヤカの乗る
通学船が不審な二人組みに乗っ取られたのを知ったコウジは
秀じぃの居る漁港に向かいかけた。が サヤカらの向かったと思われる“ウメ島”の名前を聞き、手漕ぎの和船でも充分だろう 
との思いがよぎったのだ。




タケ島から東へ5キロほどの距離にあるその島。
サメ狩りのポイントに着く前、
秀じぃは毎朝 その島に向かい 頭(こうべ)を垂れ 御ちょこ一杯の酒を撒き、合掌していた。
「あの島に 何がありますねん」
尋ねたとき、秀じぃは 珍しく 哀しい目をコウジに向け
「色々・・・とな」
ポツリ とつぶやいてみせたのだ。
それ以降 島についてあれこれ聞くこともなく、いつしか
毎朝の儀式に コウジも付き合い 合掌をしていた。

遠くから見ていただけの島であるが、山林は不自然に削られ、
コンクリートの建造らしき人工物もかすかに見えた。
だが 無人島との事だった。

荒れ狂う風 は西から東に吹いている。潮目も 東へと流れていた。
また 秀じぃがいつだったか 
「本当の嵐が来た時にぁ こういう和船が荒れる波にたいして強い・・・」
 つぶやいたのを思い出した。

『なんとかなる・・・』
確信し、縛り付けていたロープを解き始め 海原へと漕ぎ出した・・・


               ※

騒動に巻き込まれた家島小・中学校の児童 生徒らは 立岡以外の教師を付き添わせ 集団で帰宅させた。


「ところで君は・・・」
情報屋の佐々木が ヒロシに向かって尋ねる。
「え、いや・・・」
咄嗟に聞かれ どう答えたものか躊躇したが、

“民宿 はせ川”の女将の名を借りた。
「泊まった民宿の女将さんに聞いたんやが、通学船の亭主が戻ってこないらしい・・・て、電話も不通で・・それで様子を見に立ち寄ったんですわ」

「ああ、長谷川の女将さんね」消防団の島岡が相槌を打った。
「知っているのか」
「亭主は通学船をボランティアでやってまさあ」

「え、通学船の長谷川さん まだ戻ってないのですか」
傍らで聞いていた 体育教師の立岡が云った。
「じゃあ 隣島に帰った子らは・・・あ、用務員の姿も・・・」
立岡が絶句した。
「この犯人・・・他に二人の仲間が居たはずだ・・」
佐々木が 気絶し、寝転んだままの外人を見つめながら云った。

「早急に起こし、問い詰めましょう、元刑事さん」

「え? 元デカなの あんた」
意外そうな表情でヒロシが振り返る。
「なにか不都合でも」
「あ、いや  何となく 不似合いかな・・・と」

「しかし 電話が不通とは・・せめて携帯でも・・・」
云いながら佐々木が携帯を取り出したとき

「あ!圏外マークが消えている」

アンテナマークがいつの間にか 3本ディスプレイされていた。

               ※
「おい オヤジ ウメ島 まだ遠いのか?」
通学船を乗っ取った キムジョナンが叫んだ。

「この波じゃ 慌てるな」

風雨も強まり、波も さらに高くなっていた。

「アニキ、引き返した方が・・・」
リ・スンヨクが云った

「バカヤロウ、本部との約束はどうなる」

本部? 一体何やのこいつら・・・

聞き耳を立てていた サヤカが唸る。

 波は ますます 荒れ狂い 船は 大きく揺れた。

『こいつらを騙し マツ島に引き返すか・・・』
そう考えていた 長谷川だったが、

一旦 ウメ島に避難するしかない。。。。

近づく ウメ島を見つめながら ぼんやりと考えた・・・


          つづく