小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編49

「今にわかる。。。」
云いながらキムジョナンがトランシーバ型無線機と携帯電話両方をポケットから取り出す。
次に 相棒のリ・スンヨクの背中のリュックに視線を移し、
短く 何やら声をかける。

リ・スンヨクが リュックから数本の細長い金属性の棒を取り出した。
たちまちの内に組み立てられたそれは どうやら簡易アンテナのようだった。

ガーガーと言う強烈なノイズ音のあと 英語でキムを呼びかける音声が聞こえた。 




「AR-008?」
「YES こちらキム ジョナン。ウメ島より送信中。
携帯の電源入れたのでGPSにて 位置情報の取得 願う」

「OK 008・・・北緯34度○○分 東経・・・ 了解 確認した」
「ところで・・・」
何かを聞こうとした時、突然 プッツリ無線の方は切れてしまった。

「 001、001・・・」
必死で呼びかけてみたが ノイズさえ聞こえなくなっていた。

「小僧 どうかしたのか」
長谷川がキムの顔を覗き込みながら云った。

「いや 何でも無い・・・」
「いきなりのスイッチOffだったすね アニキ」
リ・スンヨクも韓国語で声をかけた。

それには答えず 無線で マツ島の ローレンスを呼び出した。

〔・・・・・・・・・〕

「こちらも応答なしか。。。」

「まさか ローレンスに。。。」
「マツ島へ戻ってみるか」
「え? しかしこの海の荒れようは。。。」

「おい オヤジ 戻れるか?」
「潮の流れが せめて逆だったら 可能性が無くはない」
「この嵐 いつまでやら・・・」

「確かに 一体いつまで・・・」
二人の会話を聞きながら サヤカも考えていた。

                  ※

「今 何やら声が聞こえなかったか?」
学校を出、消防団本部のある公民館に向かっていた 佐々木ら一行
最後尾を歩く 佐々木が尋ねた。

「さあ、聞こえたような 聞こえなかったような・・
・・それよか こいつのでかい図体 肩に食い込んできやがる」

長身のローレンスを担ぎ上げながら歩く 島岡が 泣きそうに言った。

「我慢せい もうすぐや」
「森やんも、一度 担いでみろや」

雨、風 は容赦なく 一行らの体を叩きつける。

公民館へと続く道は ところどころ水溜りが出来 ぬかるんでいた。

「ウメ島 無事に渡れるんかのう」
「島ちゃん 弱気を出すな ワシら 家島の漁師魂を見せたろうやないか」

「そうそう その意気や」
黙って会話を聞いていた ヒロシが嬉しそうに笑った。

「しかし 無人島のウメ島に一体何の用があるんかいの」
「さあ、それよ 大沢親分なら 詳しい事情知ってる 思うが」

「親分?」

「え、ああ、ワシら消防団の団長さん。駐在が居ない 今となっては
駐在代わりの 実力者やね」

その 大沢親分こと 団長は 公民館玄関で待っていた。

「よお、ご苦労」

結構 腹に染み渡る 野太い声だな・・・
ヒロシは、姫路の方の空を見上げてた。



        つづく