小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編52

「俺を釈放せよ、さもなくば まもなくやってくる本隊により
島全体が吹っ飛ぶ・・・キムら二人も事実は知らされていない」

急ごしらえの学生通訳の口から出た思いもよらない言葉に 一同耳を疑った。

「おいッ 出鱈目ぬかすと、承知せえへんぞ」
大沢団長がローレンスの顔を覗き込む。
慌ててローレンスは 通訳学生の言葉を待つ。
「ノーッ 真実だ」
事実を訴えるローレンスの目は 何かに怯えているようでもあった。
「島・・・全体て この島のことか、それとも ウメ島?」

学生通訳のあと、振り絞るように ローレンスが答えたその一言は
通訳を必要としなかった。

「JAPAN・・・・」




「ごらぁ。ふざけるな おんどれッ 何、眠たいことぬかしとんじゃあ」
ヒロシがローレンスに攻め寄り、胸倉をつかみ上げる。

「おい、チンピラ 静かにせんかいッ」
大沢団長が睨む

「ち、チンピラぁ? 誰がやねん」
「ま、まあまあ 仲間割れしている場合ですか」
それまで黙っていた情報屋 元刑事の佐々木が割って入った。
「元刑事さんとやら、コイツとは仲間ではないけどのぅ」

「団長さん。それより。。。実は昨年秋 大阪で・・・」
佐々木淳一は 国際テロ組織による 事件のあらましを説明した。
そして今回もその延長ではないかと思われ、
そして家島諸島までやってきた理由もかいつまんで説明した。

「そんな物騒な事がおましたんかい。じゃあ、コヤツ、テロリストの一員?」
一同 沈黙の後 大沢が口を開く。

おい、テロ外人 じゃあ聞くがのぅ。釈放しなければ吹っ飛ぶ・・・て
さっき 云ったよな。
じゃあ、改めて聞くが 釈放すれば 助かる道があると云うんかぁ。それに・・・
テロ集団本隊の計画て 一体何やねん。
あのれの命もかかっているんじゃ、真剣に答えんかい


ローレンスの胸倉をつかみ 怒鳴りあげるその形相は 
そこいらの親分を通り越し、まるで阿修羅像の様だったと
ヒロシは思った。

                ※
首相官邸職員の細川孝雄は 首相の肩越しに見える
掛け時計が目に入った。
 「延々と続く会議・・・もう15時・・・コーヒータイムはあきらめるかぁ・・・それより
何も 果たして本日中に帰宅できるのか、それも不安だ。。」

表向きの“異常低気圧接近対策本部”危機管理会議だが、
堂々巡りを繰り返している。

「防衛長官 なぜイザと言うときに 瀬戸内はお留守なのかね」
「ですから首相・・・先程より説明申し上げていますように 竹島 対馬
そちら方面の不審船対策に全艦出動しており。。。」
「それより江田島の基地があるにも係わらず、目の前をテロ本隊が悠然と通過したのは どのように
言い訳するのかね」
桝田厚生労働大臣が発言した。
「それに付きましては・・・今全省挙げて、究明中ですが、相手はもしかして
民間の貨物船 あるいはタンカーではないかと」
さらに続けた。

「米国国防省 偵察衛星からも不審船の報告が上がっては居なかったのです」
「台風並みに発達した低気圧。その雨雲に隠れて・・・と言い出すのじゃないかね」
「はい首相 それも事実でして・・・」

「もう、良い。これまでだ。今からしばし休憩だ、休憩。
あ、それから関係職員達に告ぐ、今夜は徹夜になるだろうからその覚悟で。その準備もあるだろうから午後5時まで休憩だ」

危機管理対策会議は突如中断になった。

「やれやれ・・・」
席から立ち上がり 大きく背伸びした。
その時 胸ポケットが ガサッ と音がし、女子職員のメモを思い出した。

同郷の地方新聞社の記者の顔が浮かんだ。
山陰ではあるが、瀬戸内、播磨灘に迫り来る危機・・
おそらく我が国始まって以来の危機に対して 
何か情報を掴んでいるのかも知れない・・・

そう確信した。

官邸を出ると 携帯を呼び出して居た。



         ※
「坂本君あれがウメ島かね・・・」
「常務 多分 古い海図が役に立ちました」

「おや 桟橋に人影が・・・二人、三人、四人、、
あッ 狂二・・・いや コージ君が居ます」

双眼鏡を覗いていた中岡社長が声を張り上げた。

キャビンでぐったりしていた 古庄多美恵は
暴風雨と波音、クルーザーのエンジン音にも係わらず
その声をハッキリ聞き、
よろよろとしながらも デッキに這い上がって来た。

       つづく