「しかしまあ、よく官邸を抜けられましたなぁ」
山陰日々新聞政治部記者 寺島は
目の前に座った 官邸職員細川に声を掛けた。
「どうも、お久しぶりです」
すかさずやって来たウエイトレスに 「ホット」
頼んでから 「ショートケーキも。あ、ショコラで」
「かしこまりました。ホットコーヒーにショコラひとつですね」
頭を下げ 奥へと下がる。
「ほー三時のおやつですかい」寺島が茶化す。
「あ、いえ、今夜は長期戦になりそうなんで・・・」
寺島は やはり・・・ピンとくるものがあった。
カマをかけてみた。
「やはり 事は深刻なんですなぁ。トンでもない奴らが近づいていて。。」
「そうなんですよ、政府の対応も後手、後手といつも言われますが、今回ばかりは 我々にとって今だかつてない奴らでして。。。」
云い終えてから 細川は ハッ とした。
この 記者 どこまで知っているんだっけ? ひやりと背中に汗が流れた。
細川の表情を汲み取った 寺島はすかさず
「A木代議士から 電話をもらった時は
肝をつぶしました。未曾有な危機じゃないですか、竹島、対馬の騒ぎは 単なる陽動作戦だったんですなぁ」
出鱈目を口に出してみた。
なんだ やはり、この記者 すべてを知っていたのか・・・
「お待たせしました」
運ばれてきた 珈琲の香りが 鼻腔を揺らした。
細川に油断と安心感が生まれた。
寺島はさらなる 追い討ちを思いつく
「しかし、首相も首相ですなぁ、“季節外れの熱帯性低気圧 危機管理対策室”
だなんて きょう日、子供も騙されませんわな」
「いやーあれには ビックリしました。何せ テロ対策が 台風対策に早替わりですから」
「ほー やはり、首相の記者会見。その真実は テロ対策?」
「えッ・・・・」
珈琲カップを持つ 細川の手が ガタガタ震えだした。
※
すっかり島の危機管理対策本部となった マツ島公民館では 大沢消防団団長ら
による 尋問が進み驚愕の事実が明らかになって行った。。
自分の国はイランである事。イランで空手道場の師範を勤める程の腕前なこと。
さらに ハングル語 英語 フランス語 三ヶ国語 語学堪能な事から 作戦に加えさせられた事
など自供を始めた。妹を国際テロ組織アレ・カイーナに無理矢理人質に奪われていて、
組織に逆らえなく、今回の作戦に参加させられた事。
さらに・・・
今回の家島襲撃の首謀者は ウメ島に渡った キム・ジョナンであり、
彼は 昨年 大阪の冷凍倉庫 テロ騒ぎで捕まった キムドンゴンの弟。
など 判明した。
「なぜ そもそも家島なのか」
「昨年キムらを捕まえる事になった功労者 その相手が ここ家島に」
団長は 元刑事 佐々木淳一の顔を見た。
「さっき話の出た、彼 “ダダダ下り祭”のあの青年ですな」
こくり、佐々木が頷いた。
「それは分かった、で なぜ ウメ島なんじゃい」
「お前ら 知らないのか ウメ島のプルトニウム・・・」
「プ、プルトニウム なんじゃいそれ」
「今から話す事実 実はキムも知らない筈だ」
そう前置きし、喋りだした。
キムの目的は 単に、兄貴の仇をとる事がスタートだった。
さらに オオサカ、ポリスに捕まった兄貴を奪還する為 やはり
組織の力が必要と、考え奴は組織に情報を流し・・・
姫路 さらに家島方面に 居るとの情報を
掴んだ組織の本部は ある案が浮かんだ。
偶然にも 今年はじめ 組織を影で操る 某国の情報局より、
ジャパン ウメ島 には 大量のプルトニウムが隠されている。
それを奪うも良し、それをネタに脅迫も良し、幾らにも化ける宝物
を何とか料理できないか との情報だったらしい。
それで ウメ島・・・現代の日本地図には記載されていないが、家島諸島の
一角にあるのを突き止めていた 組織。
キムの情報から
ウメ島 イコール プルトニウム襲撃ジャパン政府
揺さぶり作戦へと 密かに変更されていた・・・
「組織本部の狙い 日本政府が相手だと?」
元刑事 情報屋の佐々木が声を荒げる。
無言で頷く ローレンス
「莫大な額とキムドンゴンの釈放を要求している筈だ ジャパンが呑まなければ
ウメ島にタンカーごと突っ込む・・・」
「タ、タンカー この嵐の最中にか」
「ウメ島には 仲間のキムらが渡ってるじゃないか」
「だから キムも本当の事実は知らされていない。ウメ島の位置情報を探る役目
だけだったから・・・」
「そんな 出鱈目 わしら 知らんぞッ」
「そうだ、そうだ 嘘っぱちじゃないか」
団員の島岡らが口々に叫んだ。
「それで お前の役目は何なんだ」
「先ずは この島で適当な人質を確保する事になっている。組織と政府との
交渉の種にも必要だからだ。
そして交渉の結果を問わず人質たちと共に 本隊のタンカーと沖合いで合流。
交渉次第で タンカーごとウメ島に突っ込み・・・・」
「出鱈目だろ、おまえらの組織 タンカーなど、所有してるものか」
「いくら組織とは云え、タンカーまで持てない。列記としたジャパン民間の
石油タンカーだ」
「げっ 油ごとか」
「地中海沖で密かに奪還したものだ」
「じゃ、船長は・・・」
「船長も お前らと同じジャパニーズ ピストルを突きつけられタンカー
を動かしている筈」
「んな・・・・」
「自衛隊 米軍 もしやって来ても 攻撃は不可能て事?」
「なんじゃい そんな事ぐらい 今からわしらが救出や」
ヒロシが叫んだ。
が、だれも 反応できず 頭を抱えた。
外の風雨の気配が心持ち静かになりつつあった。
その時 佐々木の携帯が震えた。
ディスプレイには 田嶋総業 高城常務 が映し出された。
「あ、佐々木です。・・・・え もうすぐ マツ島埠頭に・・
えぇ、今 その島の公民館にまだ居ます・・・・
え、コージ君 それに長谷川船長も無事で。。。一緒なんですかぁ。あ、はい
埠頭まで迎えに行きます。では また」
佐々木は ひとつの光明を見た。
大沢団長を振り返り、
「民宿の長谷川船長 それにウメ島へ渡った全員無事に
こちらへ向かってます。何人かは タケ島へ帰りましたが」
そう云った。
「じゃあキムら二人も確保したんだな」
「そのようです」
「うぉー」何人かが叫んだ。
「今度はわしらの出番じゃい」
誰かが叫んでいた。
つづく
*えー 今更ですが
狂二シリーズはフィクションです。
実在の地名や、団体、人名とは なんら関連がありません ので
(-_-;)