小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編55

コージ、高城常務ら一行に 捕獲され合流したキムジョナンの通訳により、
自称イラン人 ローレンスの取調べはより一層進んだ。

キムの横にへばりついたヒロシが怒鳴る。

「嘘っぱちな通訳したら承知せえへんぞ。それに分かっとるやろなぁ、あん時の落とし前つけとらんぞ」

『黙れ・・・・ジャップがっ・・』心の中でキムが返す


しかし、ショックだったのは テロ組織 アレ・カイーナの本当の狙いを
ローレンスの口より聞いた時だった。

・・・・・・・・・・・・・・




組織はキムドンゴンの救出(解放)も
日本政府との交渉条件のひとつではあるが、一番の狙いは
30億米ドルの要求と、もし政府が突っぱねた場合、キムらが陣取るウメ島ごと石油タンカーが突っ込む・・・そしてウメ島にはプルトニウムが凡そ百キロ埋没されており・・・

 その作戦を聞かされた事だ。

「ローレン、嘘だろ そんなコト それに・・・」
続けてキムが声を絞り出した。
「それに・・・なぜお前が知っているのだ 本部の秘密を」
「作戦要領は キムには分からないよう 大事な部分は ペルシア語や、フランス語が入り混じっていた ジャパン政府への脅迫メール 英文に翻訳させられていたから分かってしまったのだ」

「秘密を知った ローレン お前の運命も・・・・」
「ジャパニーズの人質達とタンカーに乗り込むコトになっている。今さら逃亡は許されない。裏切りをしないよう 妹が人質に捕られている・・・」

ローレンスの目から 涙がしたたり落ちる。

「くそぅ・・・・そんな馬鹿な。。。」
横で聞いていた キムの弟分 リ・スンヨクがこぶしを床に叩きつける

英語で行われたそれらの会話を学生が通訳した。

島の消防団団長 大沢が佐々木を振り向いた
「元 刑事さん どう思う 何か釈然としないよなあ」
「確かに。。。疑問に思う。たとえば 
組織の全員タンカー乗り込んでいると、最初に聞いたが、では全員島に突っ込んだら 組織は壊滅状態になるのじゃないか」
学生に通訳を頼もうと振り返ったが すばやくキムがローレンスに英語でまくし立てる。
キム自身も疑問に思ったのだろう。

全員を見渡し ローレンスが覚悟を決め 喋りだした。

「国際テロ組織 アレ・カイーナー。。。実際裏で 操っている組織というより、国は 別にある。。」

「んな・・・俺も兄貴も聞いてないぞ」
キムが血相を変える
「新聞 マスコミに登場する 組織のテロ行為 それらは 影で操る国の意思によるものだ」

「国て 北(朝鮮)のコトか」
ローレンスが強くかぶりを振る
「北には そんな力はない」
「イラン、イラク。。。?」
またまた 強くかぶりを振り、
「NO!」と怒鳴った

「アラブでもコリア、パキスタンでも無い」

最後は絶叫に近かった。

「じゃあ 何処の国や」

周りの連中が 合唱した

ローレンスに注目する

何秒かのち ようやく口を開く。が
たった一言 発せられた 単語は

「分からない・・・・」


                ※

廊下の向こうで 電話が鳴っていた。

久しぶりに 聞いた気がする。

サヤカは 布団を跳ね除けた。
『今こうして 無事に生きている。。。』

当たり前な そんなコトを思うと 命のありがたみをつくづく思った。
先程 秀じぃや、ゴンを連れ帰りに来た女性に 怒鳴り散らしたコトを悔やんだ。

黒電話のベル 5回までに間に合った。

「はい 田嶋・・・」
返事の途中

わー 良かったああーーー!」
受話器の向こうで 親友 ひろ子の声が響いた。

「あ、ひろ子 どないしたん」
「どないも こないも 無事やんなー」

「まあ、何とか生きて帰ったけど・・・えッ その事何で知ってるのん」
「え・・・それより あの子は? ゴン・・・」

「え、ええ まあ 今ちょっと出かけてるけど」
「出かけてるて この嵐にか」
「うん あの子を連れ帰りに来た人達と一緒の船で・・・」
「あーーーやっぱり ごめん・・・」
「え、 何やの 何がごめんやの、何知ってるん 何のことやの・・・・」


「実は・・・・・」

数分後 受話器を握り締めた サヤカは呆然と立ち尽くした。

とんでもないテロ組織が この島に
向かって来ているというのだ。 
ゴンが片付けた二人組みは 単なる組織の一員だろう との事だった。

「姫路の警察は? あ、自衛隊が居るやん 早く通報してよ」
サヤカが怒鳴った。

もう すべて手を尽くしたねん でも
この嵐やから何も出来へんて言うねん
 それで さっき、
警察のアホたれ 言うて
電話切ったったとこやねん・・・


そ、そんなあ・・・・・

サヤカの悲鳴を聞いたのか 

居間のフスマが開いた。

古庄多美恵がサヤカの横に立った。

ふと 母親の面影がよぎる。

「うわーーーーー」

多美恵の胸に飛びつき しばらく泣き崩れた。



  カタカタ・・・・風雨が 物置のトタン屋根を打ち鳴らしていた。

「嵐は まだ 過ぎ去っていなかったんや・・・・」

ゴンら 何を実行しようとしているのだろう・・・・

多美恵の胸でしばらく考えた。


          つづく