小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編56

「ワッタム ナウ!」
壁側向きで横になっていたローレンスが突然起き上がり叫んだ。

対策を協議していた一同 振り返る。

「あーん、おいキム、何言ってるんや 早よ訳せ」
ヒロシが横のキムジョナンのわき腹を突っつく。

「What time now・・・つまり 今 何時だ? てことだ」
英語の初歩もわからないのか。。。ハングル語で毒づく。

「5:00PM of now」
腕の時計を見せながら キムがローレンスを振り返る。

ローレンスは安心したかのように 再び横になり、壁側を向き背中を見せた。

「しきりと時刻を気にしていたようだが、本隊のタンカーが近づくのは
まだ先なんだろう?」
佐々木がキムに問いただす。
「自分が聞かされているのは 明朝3時・・・ただ、それさえも正確かどうかわからない」
ポケットの無線機を取り出し、
「その後の連絡が途絶えたまま。。。」
力なく うつむいた。


再び ローレンスが起き上がり「ナイン ピーエム・・・」
云いながら自分の無線機を指す

「午後9時に 本隊から連絡があるんだな」
そうだ。と云わんばかりにうなづく。

「あと 4時間・・・か」

その時 ガラリッ と戸が開き 民宿長谷川の女将が 入ってきた。

「これはこれは皆さん ご苦労様です。主人から話は聞かせてもらいました。
それで 何も大層なお礼は出来ませんが、せめて夕食を ウチでどないやろか 
そう思いまして 皆さんの分、用意は出来ましたので」

「おう 女将 すまんのう」
「じゃ 作戦の続きは 飯でも喰いながらや」大沢団長が立ち上る。

「腹が減っては 戦も何とかやしの」ヒロシも後に続く。

「じゃぁ ワシらも」消防団の島岡、森本、甥っ子の学生グループ、
情報屋の佐々木らが次々に立ち上る。

どうすべきか思案していた高城常務らに向かって大沢が
「大阪からの客人 皆さんも一緒にや、この青年の島での武勇伝聞きたいだろうし、わしらも大阪での武勇伝聞きたいがな」
ゴン(コージ)を指差しながら 豪快に笑い飛ばした。 

そのあと 奥で小さくなっているキムらに向かって
「そこの不良外人3人組 お前らもや ええ加減腹も減っただろう」

「ワシらも。。。良いのか・・・」キムが大沢を見上げる
「当たり前やがな ゴチャゴチャ云わんと 早よ来い」

うぐっ・・・・

なにやら こみ上げるものを キムは感じた。

『この不思議な感情は 一体?・・・それに この場の奴らの明るさは何なんだ やがて来るだろう
厄介なものに対して どうも楽しんでいるようにも見える。まるで遠足前の小学生の様に。。。。』


                   ※
午後8時32分 
山陽新幹線ひかり博多行きは
 姫路駅に 定刻より10分の遅れでホームに滑り込んだ。

山陰日々新聞政治部記者 寺島は 播州赤穂に向かうべく 在来線の乗り換えに急いだ。

途中売店で 姫路周辺の地図を買う。

「聞こえるか 寺島 赤穂や、赤穂 討ち入りの赤穂や」
先程新幹線の中で交わした加地川部長との電話を復唱した。

「はあ? 姫路からの方が近いと思うんすけどね」

「黙って聞け この時化じゃ 腕に覚えのある漁師が頼りや 赤穂漁協に一人居たんや」 

「は、すんません とりあえず赤穂へ向かいますわ」

丁度10分待ちで 赤穂行きの列車がホームに到着した。
 
風は幾分弱くなったような気がするが 雨は容赦なく ホームの屋根を叩きつけていた。

車内はガラガラだった。早速座席で 地図を広げた。

ちいさく 「あっ」とつぶやく。

目指す家島は 姫路からも確かに近いが 赤穂の方がより近くの位置に所在していた。
何よりも 家島より東方向。。。。
つまり 強烈な東風に助けられるコトも考えられる・・・て訳だ。


 赤穂駅では個人タクシーが一台 ポツンと待機していた。
「赤穂漁港へ頼みます」

「はあ 今からですか お客さん この時化に」
不審げに運転手が振り返った。

「ああ、今からだ」

 今から 本当の時化(嵐)がやってくる・・・・

 心の中で つぶやいた。



         つづく