小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編57

「大沢団長あてに FAXが来てますけど」
渡辺電気店の店主が 民宿はせ川にやって来た。

「おう すまんな 電話回線殆んど直ったんやな」
回線ぶった切ったこいつ等から 修理ポイント教えてもらいましたんで。。

渡辺はキムらを指差しながら、FAX用紙を手渡した。

「おう、これこれ 待っとった」
巨体を揺らしながら立ち上がりFAX用紙をつかんだ。
発信人、石田播磨重工業からのものだった。

大沢は ぐるりと一同を見据え 言った。

「皆 これから乗り込むオイルタンカーの設計図や」





「親分 どうしてそれを」
消防団の島岡が云った。

「はは、この長身の外人から 本部が乗っ取りしたと云う
タンカーの特徴を聞いて、
さらに船長が日本人と聞き 石田播磨重工業の ハリマ丸に間違いないと、
それで ハリマ丸の設計図 送ってもらったんや」

「あ、そういえば団長は昔 石田播磨の呉工場の工場長や」
森田が頷く。

佐々木淳一は 覗き込んだ高城常務に無言で返事した。
『この団長、かなりの男です』 

 民宿に移動する前 携帯電話に向かって喋っていたのを
思い出した。

てっきり 家族への電話だと 思い込み横を通り過ぎたのだった。

「よっしゃあ、ローレンスとやら、作戦の続きや・・・」

ローレンスが言い出した作戦とは
 ゴン(コージ)、ヒロシ、佐々木、それに高城常務ら
一行も 島の住民になりすまし、
ローレンス、キムら3人に捕らわれた島の住民人質のフリをし、タンカーに乗り込む。
そして、敵の隙を突き、船内の乗務員の救出さらに
船長室を確保。。。
というものだった。

「元刑事さんとやら、どう思う」
「今の我々に出来る事・・・の精一杯でしょうな」
続けて佐々木が云った
「ローレンス、キムらがポイントでしょうな どこまで敵を欺いてくれるかの・・・・」

本隊は百名ほどか・・・
で、対する わしら・・・大沢が人数を数え始めたとき

「当然僕らも参加でいいんすね」
大沢団長の甥っ子 鶴野健太が口を挟んだ。

「学生のひよっ子の分際で おまえら足手まといじゃ」
ヒロシが笑った。

「なんじゃい、この金髪がッ」
フェリー乗り場で絡んできた一人が突っかかる。

「健太お前だけで良い 他の連中まで連れて行く訳にはいかん」
大沢が間に入る。

「しかし、伯父さん。。。」
「相手は 機関銃を持ったテロリストぞ、町なかの喧嘩相手とは
違うんぞ」

その時 ローレンスが持つ ハンド無線機から声が鳴った。

一同 時計をみる。

ぴったり午後九時だった。

「YES・・・」ローレンスが無線機に向かった。

後ほど キムが訳したところによれば、
「島の人質ら確保したところです、キムらと
共に 予定通り タンカーに乗り込む・・・で時刻は予定より早まり午前零時
マツ島沖合い 2キロの地点・・」
との事だった。

熱帯性低気圧の風で 予定より早く到着するとの事だった。

「はは・・あと 3時間か 待ち遠しい」
言いながら ゴンが立ち上がった。

ローレンスに負けず劣らずの長身、天井に頭が付きそうだった。

「こ、この野郎 なんてガタイしてやがる・・・」
ヒロシが 心の中で唸った。そして
「あと三時間か・・・」
ヒロシもつぶやいた。 

                 ※
ゴトッ・・・
玄関先で物音がした。

サヤカは 気配を感じ 慌てて走った。

秀じぃ の背中が見えた。

「秀じぃ 時化の夜にどこへ行くん」

「あ、すまん 起こしたか ちょっと船を見てくる」
言うなり 玄関の扉を閉めた

「あ、嘘やッ ほんまは何処へ行くん?」

叫んでみたものの 無人の玄関にむなしく響くだけだった。

                  ※
赤穂漁港は相変わらず風が吹いていた。
雨は 小止みになったかと思えば勢い良く叩きつけたりだった。

「晴美丸・・・」
加治川部長に聞いた 船を探した。

「果たして 出航してくれるものかどうか・・・」
閑散とした 真っ暗闇の漁港で 寺島は不安になった。

ゴッ ゴロロロロ・・・・

ディーゼル音が響いた。

駆け足で近づく。 真っ赤なツナギ服、
ひざまでの長靴を履き、茶髪に捻りハチマキの青年が
こちらを見ていた。やがて
無言で煙草を銜え火を点けた。

シャキーンッ ジッポーを閉じる音が鳴る。

「おっさん、こんな夜に 漁船に乗りたいて、本気かい」
青年と言うより、あどけなさの残る まだ子供のような顔つきだった。

「赤穂に 居たんや 腕の立つ漁師が・・」

政治部部長 加治川の電話の声をひたすら復唱していた。。。

『大丈夫 大丈夫 落ち着け・・・』

闇の海に 祈っていた。


        つづく