小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編60 最終章中編

「stop!and wait」
頭上の甲板から命令口調の声が降った。
コージらに緊張が走る。
見上げると2,3人の見張りの隊員がパイプ状の手すりから
身を乗り出し我々に機関銃を構えていた。

先頭を昇っていたローレンスが我々を指差し、その隊員に何やら
話し込んだ。
最後尾で監視役のキムが小声で
「予定通り島の住民を連れてきた」
「よし 昇れ」
同時通訳を行う。

「我ら可哀想な子羊に神のお恵みを」
ヒロシがわざと 泣きそうな声を出し、両手を突き出した。
その両手は全員一本のロープで縛られ、繋がっている。
(もちろん見せかけで イザという時は直ぐに外れるようになっている)


誰も無言でスチール製の階段を踏みしめる音だけが
”コツンコツン”と 返事するかのように鳴り響いた。

全員が甲板に昇り終えると 隊員の一人がすかさず昇降口の錠を掛け、
鍵を胸ポケットに仕舞い込んだ。
色が浅黒く口ひげを蓄えたその隊員の特徴を コージは頭に叩き込んだ。

甲板に出ると 相変わらずの風が より強烈に吹き荒れ
皆の体を叩きつけた。船は停泊中にもかかわらず 轟音が唸りを上げ
左右に大きく揺れており、全身が浮き上がりそうになった。

しばらく甲板を歩かされたあと、キャビン室を横に見ながら 地下へと続く入り口に案内された。

「カムイン」先頭の隊員に続き 扉をくぐる。
ガチャッ 扉を閉めると 爆風のような風音は消えたが 代わりに
凄まじいエンジン音が我々を襲う。

『大沢団長の予想通り エンジン室か・・・』

まるで迷路のような地下を歩かされた。
通路の角ごとに テロリスト達が我々を見張っていた。

「おそらく20人前後のグループごとに分散しているはず・・・」
ローレンスの言った通り 奴らは20人ごとに“隊”を組み 
要所要所で監視していた。

また機関銃も全員が持っては居らず 
隊の中で一人あるいは二人ほどが構えているだけだった。

「It is here, and enter」
先頭の隊員がローレンスに顎で合図した。
「ここだ、入れ」

扉には Engine roomと書かれたプレートが張り付いていた。

「大沢団長 予想通りですな」ヒロシが声を上げる

SHUT UP」銃を構えた隊員が飛んでくる
「シャッ シャットアップ? おいキム こいつ何云ってる」
「黙れ 静かに ってコトだ 今から奴らを刺激するな」

「は、はは。。。ハイハイ」両手を上に挙げたまま ヒロシが
おとなしく「アイムソーリ」
とつぶやいた。

エンジンルームに閉じ込めたあと 
我らの見張りは ローレンスとキムジョナンらに任せたと云うべく、
隊員らは我らを残して出て行った。


「ここまで迷路のような通路だったが、来た通路 覚えてるな」
大沢が問いかけた。
「団長の見取り図が役立ちました。歩きながら今はここら辺だな
って、感じを掴めましたから」佐々木が汗をぬぐいながら答える。

「今のところ奴ら4、50人しか見かけないが 本当に百人も乗り込んで
るんか」ヒロシが誰にともなく聞く。
「おそらく・・・」
キムがローレンスの代わりに答える
「残りはハウスと呼ばれるベッドルームそれにブリッジに集中だろう。
階段の要所要所の見張りとか」

「今の所ローレンスらを疑っては居ないようですな」
高城常務がローレンスとキムらを交互に見ながらささやく。

「よしそれじゃあ、そろそろ 作戦の開始や」
大沢が輪の真ん中に座り 皆を見上げた。

全員 輪になり 緊張が走った。

船はまだ停泊中のはずだったが、コージには大海原を
疾走してるが如く感じられた。

とてつもない 闘いが始まろうとしていた。


         つづく