小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編67 最終章後編その六

ハウス内は空調も効き先程までの、船底特有の轟音や
体に纏わり付く熱気、湿気も無縁で、
 快適な風が流れていた。

奥に見える部屋に貼り付けられた“食堂”と書かれたプレートが
“なごみ”を感じさせた。が
 
 いきなり厳しい現実に引き戻される・・・

武装のテロリスト達に 取り囲まれた。

次々と各部屋から飛び出してきたようだ。

人質の振りを装うゴン 下向きのまま 奴らの軍靴を数えた。

! その数 おおよそ50人

『いきなりかよ』





うつむきのまま こちら側を 頭の中で数えた

ローレン・キム・ヒロシとか云う面白い奴・竜ボン・佐々木とか云う元刑事・
中岡社長に高城常務。。。。それに えーーーと
あ、そうそう 坂本と呼ばれてる社長 この人も拳法の達人や

で、“ダダダ下り祭”で共に 同じ釜の飯を喰った 鶴野健太・・・
そして 俺

10人か。。。
あと 二人ほど居た筈やが。。。あ、そうそう
大沢親分にキムの弟分・・・
あれからどうしてるのやら。

とりあえず 50対10・・・
一人あたり 5人か、まあまあやな。

昨年の築港冷凍騒動では 相手30人に対し 最初は 俺と竜ボンの
二人だけや。

その事を思えば・・・

 
「Lawrence! Is does it enter suddenly and on earth for what?」
(ローレンス、急に入ってきて 一体何の用だ)

この場のリーダーらしき男がローレンスと向き合う。
2メートルのローレンスとほぼ互角な体格だ。
ただ 幸いにも 銃は持っていない。

心持ち顔を上げ 他の兵士らの手元に視線を移す。
銃を持っているのは2、3人のようだ。

さらに顔を上げ タンカー乗組員の人質達を探す。。。
が、周囲には居ない

奥のベッドルームと操舵室の船長だけなのだろう。

『よし、今のウチや』
佐々木も同じ事を考えたのだろう ローレンスに目配せを
送る。

「these hostages・・・」(この人質らが・・・)
ローレンスがいきなりしゃがみ込み、
苦痛にゆがんだ顔で言葉を吐き出す。


「Is ..hostage.. Was there anything?」(人質らがどうしたのだ)

相手はローレンスに覆いかぶさるように近づいた。

その一瞬 ローレンスが屈伸運動よろしく 体を伸ばす
頭が相手の顎を完璧に捉えた。

巨体がぐらりと 仰向けにのけぞる。
しかし、かろうじて踏ん張る。
が、ローレンス それを予測していたのか 一連の流れるような
華麗な回し蹴りが相手の首を強打する。

ようやく相手は こらえきれず横倒しになった。
目は”かっ”と開いていたが、
空を見つめ 明らかに意識は飛んでいるようだった。

Oh! Noooo!

周りの兵士たちは 一瞬何が起きたのか理解出来ない様子だったが
口々に叫びながらローレンスめがけ駆け寄る。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

が彼らの最大の不幸は ローレンスひとりのみを 反逆者と決め付けた事であろう。

ロープに縛りつけられた哀れな日本人たち 
さらに テロ仲間な筈の キムジョナンの攻撃を予想する者は
ただ一人として居なかった。

ローレンスに集中した一瞬を利用し ゴンらはロープを外していた。


50対10
双方 入り乱れ ハウス内は騒然となる。

三人ほど銃を構えていたが、入り乱れたのが幸いし、銃口を向けるのに 躊躇させた。
相手を狙ったつもりでも体の向きは瞬時に敵味方 入れ替わるからだ。

銃を持たない兵士・・・ローレンスの情報通り 拳法の特訓を
一応は受けていたようだった。
が ゴンや高城 坂本らのレベルの高さとは 足元にも及ばない・・

また 幸いな事に ゴンの跳躍力を披露する 高き天井がハウス内にあった。

テロ兵士の肩程の高さに跳躍しての 回し蹴りは 周囲の度肝を抜き 唖然とさせた。

『なんて野郎だ コイツ』
兄貴 キムドンゴンの仇と信じ込んでいたが 高城らとの会話が
甦った。

「それは誤解や、むしろ彼の命を救ったのはこのコージ君や」

『なんと愚かな・・・俺・・・』
心で叫びながら 敵 兵士ら 次々と 蹴り倒していた。


・・・・・・・・・・・・・

ハウス内の 驚くべく光景を見つめる 二人の目があった。

一人は 山陰日日新聞記者 寺島。
わなわなと震えながら それでもしっかりと携帯撮影していた。

そして もう一人・・・

慌てて 操舵室に駆け上がった。

そして 船長の横で居座る男に叫んでいた

「Boss!Let's change the strategy」
(ボス! 作戦を変更や)


       つづく