小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編69 最終章後編その八

ハウス内のテロ兵士ら全員を気絶させたあと、佐々木の指示で
凶器類 無線など全部押収 一箇所に集めた。

「残るは 上、ブリッジ(操舵室)だけや」
言うなりヒロシが派手な音を立て階段を駆け昇りだした。

「まっ、待て」慌てて佐々木が制した。

4、5段目のところでヒロシが立ち止まり、

「一気にやっちまおうぜ」
不服そうに振り返る。

「落ち着けッ 船長らが人質のままや」
高城も階下から声を上げる。

その時 グラリと床が揺れた。

「時化がひどくなったのか」
「いや、その揺れとは違うな」

左右の揺れのあと、前後へと振動が伝わり始めた。

 ! まさか 前進





今度は 佐々木が慌てて ブリッジに駆け上がった。

全員 あとに続く。

全員が駆け上ったのを見計らった様に扉が開いた。

緊張が走る。

「ローレン、キムッ」
奥から怒鳴り上げながら 口ひげの兵士が銃を片手に出てきた。

咄嗟に銃を構えたキムだったが 兵士は人質の乗員を連れていた。

人質は苦痛に顔をゆがめ、白の制服はところどころ血が滲んでいる。

慌てて銃を引っ込める。

兵士は 「中に入れ」と云う様に 
全員を見据えたあと あごをしゃくった。

「しかたあるまい」佐々木は皆を促し 扉をくぐった。

船長は大柄な男に銃を突きつけられながらも 舵に手をかけ、前方を凝視していた。

やはりタンカーは動き始めていたのだ。

「く くそッ 一体何処へ」

「Lawrence!Kim! Japanese Government also : the betrayal to it not permitted」
船長横の大柄な男が怒鳴った。

「おいキム 訳せ」ヒロシが怒鳴る

「わかってらぁ」
云いながらキムジョナンが続ける
(ローレンス キム、裏切りは許されない それに日本政府もだ)

(すでに我々は 同じ目的地に向かってスタートした)

「何処に?だ」

(レーダーを見よ ウメ島だ このまま 突っ込む 俺らの命 神に捧げる)

男が示した3つほど並んだ計器類の真ん中のレーダーを覗き込む。
確かに船マークは 赤色に光る×印に向かっていた。

「ば、馬鹿やろう」
全員 拳を握り締める が、

船長は勿論 他の乗員達にも銃を構えた兵士が睨みを利かせていては
なすすべも無かった。 

               ※
------首相官邸------
危機管理対策本部会議室 アメリカからの偵察衛星を映し出していた
スクリーンを監視していた職員が叫んだ。

「大変です テロリストらに乗っ取られたと見られる大型のタンカーが移動し始めました」

「スクリーンが復活した第一報がこれですかい」
福谷首相がため息を吐いた。

今からわずか30分ほど前に低気圧の雲も取れ、
偵察衛星の機能を復活させていたのだ。

会議室は騒然となった。

「何だと テロ側からの連絡、途絶えたままじゃないか」
官房長官がスクリーンに駆け寄った。

「ウメ島まで 残り3キロの距離まで迫ってます」

「そんなぁ」

職員の細川は 30分ほど前に
首相を怒鳴りつけ 官邸屋上のヘリポートから自衛隊横須賀基地へ飛び立った
大学教授の山澤を思いやった。

横須賀には海上自衛隊が誇るMH-53E型 掃海ヘリコプターが
たまたま立ち寄っていたのだ。
最大速度=315km/h 、最大航続距離=2,075kmのそれは
二時間足らずで家島まで巡航可能だ。

だが二時間か・・・細川は袖を捲くり腕時計を覗き込んだ
 が
針はストップしたままだった。

こんな時に電池切れかぁ。

つい何時ものクセで携帯を取り出し ディスプレイの時刻を確認した。



その時 メール受信に気付いた。

「誰だろうこんな夜中に」
つぶやきながら 親指をプッシュ

送信者は 山陰日日新聞寺島記者

jpg画像も添付されていた。

件名 「凄い事が始まってる」

携帯のボタンが壊れるのではなかろうか 
思うぐらいの力を込め、クリックボタンを押した。



      つづく