小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編70 最終章後編その九

原油タンカー・・・黒々とした島影にも似た 巨体は咆哮を挙げ
目標物(ウメ島)に向かって波飛沫を上げた。

船長が タンカーの進行方向を変えようと何度か試みたが、
その都度、左右を取り囲んだテロリストらに、顔面や体を殴られた。
「あ、止めろ」ゴン、ヒロシ、佐々木ら皆一斉に声を上げる。

が、テロ側を刺激すればするほど、船長が痛めつけられた。
銀髪の日本人船長は 疲労困憊それに加え、苦痛に顔をゆがめた。

ゴンら 何も手出し出来ぬまま、キャビン内はただ
重苦しい空気だけが流れた。


「糞っ」
まんじりと 対峙するしか“なすすべ”が無かった。

「船長を解放しろ!」
ローレンスとキムが 何度も英語で叫んだが ボスは 冷酷非情な視線で睨み返すだけだった。そのくせ口元はあざけるように
笑っていた。

「今さらだが、奴は狂っている」
誰にともなく キムが吐き捨てた。

その時、ゴン・・・

前方のレーダー画面に映し出された 船型のマーク、そしてバツ印(おそらくウメ島)
の位置関係を見つめながら ある事を思い出した。

『島の手前は 潮流が渦巻いていてのぅ。。。』
事実 秀じぃの言葉通り、
和船を漕ぎ サヤカを救いに行く途中 
巨大な渦に飲み込まれそうになったのだ。

ただ・・・フルスピードで突っ走る この巨大なタンカーにとり
果たして影響があるのか、ないのか。。。。

が、このタンカーは 巨大な渦めがけ走行しているのは
紛れもない事実だ。

横の高城常務に目配せした。

高城も 先程からレーダーをしきりに見つめるゴンに気付いていた。

よし わかった・・・・

無言で うなづき返した。

さらに 高城の横の坂本社長・・・竜一・・・キム・・・
ローレンス・・・ヒロシ・・・
次々と“気”に鋭い勘を持つ者へと 伝播されて行った。

バッ バッ バー

その時 船底あたりの爆発音と共に軽い衝撃がキャビン室にも伝わった。

フルスロットで走行していた タンカーはまるで逆走行するように
ガクンッ と速度を落とした。

「船長! 船に何をした」
テロのボスが血相を変え怒鳴った。

「わ 私は何も・・・・」
船長も眼をパチクリさせながら言い返す。

そして とうとう目の前に ウメ島が迫った。

の時、

グワーン 鉄板をねじ切る様な衝撃音のあと 船の穂先が左右に震える。

タンカー全体が左右に横揺れを始めた。
やがて全員 立っているのがやっとと云うぐらい
船内が傾いた。

『あの時の渦や』
両足で踏ん張りながらゴンは確信する。

キャビン室は騒然となった。

船長もよろめき倒れ込み、一瞬ボスの手から離れた。

その一瞬・・・
ホンのゼロコンマ何秒かの世界だったろう 
ゴンは見逃さなかった。

ボスの身体めがけ跳躍した。

右足は芸術的とも云える半円を描き、 
頂点から振り落とされた鋼(はがね)のように鍛え込んだ
足首・・・・

ボスの首元を食い込ませた。

白目を剥き 倒れるボス・・・

「ボス!」

「イエロージャップ!」

周囲の兵士らが 口々に叫び ゴンに向かう。

その瞬間 

「待ってました!」

とばかり 高城、坂本、キム、ローレンスらも

兵士めがけ、唸りをあげ拳や蹴りを炸裂させた。 


       いよいよ 最終回へと
         続く