小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編71 最終回

 

「秀よ、あ、あれ・・・・」 ウメ島の山中に埋められていた プルトニウムをやっとの思いで 掘り出した長谷川が沖合いを指差した。 「あーん どうした」 200kgの塊を縛り付けた二本のロープ、一方を引いている 秀じぃは それどころやないけん と言いたげに 海の方を振り返った。 「タ、タンカーがこっちに向かっちょる!」 腰を抜かさんばかりに驚きの声を上げた。

「くっ。。。。よりによって・・・」 嵐のあとの山道は ぬかるみも多く 足元が不安定だった。 ロープの先には 200キロの塊・・・

「このままじゃ、島は炎上じゃ・・・」

だが その時 タンカーの鼻先が横を向き出した、激しく横揺れも 見られた。

しばらく渦にもまれていたが、おおよそ5分後 渦から脱出、しかしタンカーの鼻先は ウメ島に向かうことなく 横を向いたまま停船した。

「お化け渦じゃ」 「そうじゃった あの潮道には 巨大な渦が棲んでおったわ。。。」 「ざまぁみろじゃ」 「そう、ざまあみろじゃ」

「停船したのは ゴンらの手柄かのぅ」 「おそらくな・・・・」 山の中腹で 尻餅を着きながら 二人が笑った。

「おい急ぐべ まだ崖の中腹じゃ」 「ふもとまで 先は長いのぅ」 「いやいや、もう崖の中腹じゃて。。。」 「物事は考えようじゃな」

二人して腰を上げ、泥のついた尻を払った。

※ 官邸職員の細川は 壁際に貼り出されたスクリーンと 携帯メールを交互に見くらべていた。

先程読んだメールには (政府は こっそり特殊部隊を送りこんでたのか、テロたち殆んど壊滅、 今から 操舵室に行って・・・)

そこで 中断されていた。

特殊部隊? テロ壊滅? 意味が分からなかった。

そのあと 会議室はより騒然となった。

「ウメ島が目前に迫ってるじゃないか 防衛長官!」 珍しく 福谷首相の怒声が響いた。

「万事窮す・・・」

誰しも思ったとき

「うわあああーー」 スクリーンに映し出された タンカーは急に減速 揺れ始めた。

「どうした、なんだ なんだ どうした」

細川も我慢できず 通話履歴ボタンを呼び出した。

政務調査官と視線が合ったが、気にしている場合じゃない。

一回コールしただけで 山陰日日新聞 寺島の声が響いた

「ワシや 今 最後のテロ側のボスらと闘いの真っ最中や」 「え、誰が闘ってる 言いますねん?」 「政府側が寄こした 特殊部隊ちがうんか?」 「え? そんなの初耳ですよ」

※ ボスと呼ばれる その男 ゴンの一撃で 倒れはしたものの、しばらくして 「どっこいしょ。。。」 云いながら ゆたり 立ち上がった。

そして薄ら笑いを浮かべながら ゴンをにらみ付ける。 人質の船長は 隙をみて逃げ出しており、 情報屋 佐々木らに無事保護されていた。

が 「そんなのどうでも良い・・・」 言いたげに 腰の拳銃も捨てた。

すぐさま ゴンに向かい 突き、蹴り の波状攻撃をしかけた。

「グっ・・・・・」 瞬時 両手をクロス ガードを固め、 ゴンも負けじと 前蹴りで応戦

体格はお互い 2メートル前後。

巨体同士がぶつかり合った。

突き と見せかけて 左足の回し蹴りが飛んでくる。

相手のボスも 結構武道の心得があるようだった。

「久々に ワクワクしやがる・・・」 いつしか 心地よい緊張が脳裏を渦巻いていた。

全、神経を 掌、指先、足首、足の甲に集中させた。

次 シミュレーションをする。

この動きに対して 奴のガードは? あの動きの場合 奴の腕の位置は? 足の開き幅は?

少し試してみる。

思わず 笑いがこみ上げそうになった。

奴の動きは 鉄板とも云うべく シミュレーション通りの動きだった。

「漫画のセリフじゃないが もう 見切ったぜ」 叫びと同時に 右足を旋回 回し蹴りと見せかけ 着地の右足を軸に 後ろに跳躍 回転しながら 左足の 付け根を ボスの首元に叩き込む。 (ボグッ。。。〕 肉がぶちきれる音が艦内に響いた。

そして「ぐふッ・・・・・」 朦朧とした意識で倒れこむボス

さらに ゆっくり倒れこむボスのアゴをめがけ 床すれすれを払った ゴンの拳が 猛烈な勢いで飛び上がる。

グワッシュ

骨が砕ける音がした。 「今のは 船長の分や」

「あの時の 強烈アッパーや・・・・」思わず竜一が 目をそむけた。

気付くとキャビン内は いつのまにか 静寂が支配していた。 全員 ゴンの闘いを見守っていたのだ。

他のテロ兵士らは キムやローレンス 高城らにより既に倒されていた。

「ゴン!それまでや それ以上やると死んじまうぞ」

野太い声に全員振り返った。

大沢が入り口付近で笑っていた。 リ・スンヨクも横に居た 「あ、親分・・・・」 「先程の爆破 やはり・・・」 「ああ、消火に手間取ってのぅ・・・」 「わは・・・消火器の粉ですかい 俺はてっきり白塗りの バカ殿かぁ 思ったぜ」

ヒロシが笑った。

やがて 全員の笑い声が 狭いキャビンに響いた。

※ 「もしもし 寺島さん その笑い声は何ですのん」

官邸職員 細川の声が 会議室に響いた。

「どういう事だ」 先程視線のあった 政務調査官が飛んできた。

一部始終 事情を聞き終え、スクリーンに目をやり 停船したままのタンカーを確認したあと

「総理 解決です テロ側 確保しましたあああ」

「早急に 自衛隊 海上保安庁巡視船 すべてを現地に派遣しなさい」 福谷首相が再び吼えた

「もう 向かってます」

スクリーンには いつしか タンカーの周りを取り囲む 自衛隊の艦船や海上保安庁の巡視船などが 映し出されていた。

「遅いちゅうに・・・・で、特殊部隊の正体て。。。」

携帯を握り締め 細川がつぶやいた。

それから 30分後 山澤教授を乗せた 自衛隊ヘリは ウメ島 埠頭に無事着陸した。

そして ガラガラと何物かを引っ張る老人二人を発見。

すぐさま 核反応調査器で調べたが 奇跡的にも核物質に汚染が されていないのを確認した。

だが、「わしら どこにも行かんぞ」 粘る 秀じぃらを説得し、姫路の 大学病院へと 山澤教授付き添いのもと 検査入院させ 核汚染の検査を行わせた。

また 二人が引っ張り上げた プルトニウム。。。 奇跡的にも 埋めた当時の処理 ステンレス管及び硝子体コーティング さらにステンレス加工。。。 と二重三重にも施されていたのが幸いし、 核物質の一切が漏れていないのが 防衛庁核問題秘密調査機関の調べで 明らかになった。

「奇跡じゃ 20年前、しかも民間の業者・・ そこまでの知識があったと云うのか」 山澤教授が絶句し、やがて安堵した。

三日後

数日前の 激しい時化(しけ)が嘘のような 穏やかな海が 続いていた。

そして トンでも事件も何も無かったの如く 島の生活は 平穏を取り戻していた。

だが 「そろそろ 時間じゃ」

先日 無事退院してきた 秀じぃの声が響いた。

「うん。。。。」 サヤカの声が 消え入るように小さく応えた。

サヤカは思わずゴンを見た。

後ろ向きの背中が 心なしか震えていた。

えッ?・・・

「あー まさか 泣いとぉ?」 ひょうきんにからかった。

が、「るせぇ。。。。」

ゴンことコージは背中を向けたまま 腕で涙をぬぐった。

「秀さん サヤカん お世話になりました。。。。」

ゴンの声が震えた。

震えた声が サヤカのスイッチとなってしまった。

「わーーーー 」

数分間 畳に伏し泣きじゃくった・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

古庄多美恵は 陽だまりの中 穏やかな海を眺めていた。

あんな事 すべて夢のような・・・

ふと 視線を感じ 振り返ると サヤカが板壁にもたれ立っていた。

毛糸のカーディガン 両方の袖が伸びきり 両手は隠したまま 脇のポケットに手を突っ込み 片足を 板壁に乗せていた。愛しいその立ち姿に 昔の教え子が重なってしまい、思わず駆け寄り抱きしめた。

「今まで ゴンをありがとう」 「・・・・・・・・・」 「また きっと来るわね」 「うそや・・・・」 「嘘 違う、ここ家島 第二のふるさとに思えて仕方がないんよ」 「卒業したら うち 大阪に行こうかな」

「あ、是非いらっしゃい」

だが サヤカは 多美恵に視線を合わせることなく 下を向いたままだった。

おそらくこの子 秀さんと海や島を守るに違いない。

そんな気がした。

「じゃ 皆さん 待ってられましょう。。。。」

ゴンと出てきた 秀さんが つぶやいた。

春の海の香りが 涙の頬を撫でた。