小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

三ヶ月ぶりの エピローグ。。。のようなモノ

「まもなく姫路、姫路です。乗り換えのご案内を申し上げます・・・・」
JR東海道本線、大阪から乗った新快速の播州赤穂行き列車では車内アナウンスが始まった。

「さてと いよいよ 最後の難関だわさ・・・」
ひとりごちながら 山陰日日新聞 元政治部記者 寺島は網棚からボストンバッグを降ろした。
新聞社時代から愛用している所謂(いわゆる)取材の為の七つ道具が
ぎっしり詰まっており、右手に食い込む。

「キリッ」
瞬間 胃の辺りに 針で刺すような痛みが走った。

『またかよ・・・でも今日で最後の取材が終わる。
そして執筆前に一度 人間ドックとやら入ってみるか』

“プッシュー”
新快速のドアが開き 人の波に押されるようにして 姫路駅ホームに降り立った。





山陽地方の暖かな春風が運ぶ 潮の香りがよぎった。
だが それは錯覚だろう。

海辺までは 結構離れている。

だが ここ播州灘を舞台に二年前に起きた〔あのトンでも事件〕
と関わった事が潮風という錯覚となって
寺島の頬を撫でたのだった。

駅前広場では 何十台ものタクシーが客待ちで連なっていた。

フリーとなった今では タクシー代も結構、馬鹿にならないのはわかっていた。
が、
“その場所”は 市内の外れ やや交通不便な場所にあった。
また 地元の運転手なら “その筋”の情報も 何か知っているかも知れない
そんな事も 頭をよぎった。
迷わず、タクシーのドアーの前に立った。

「緑町の竹川組まで」
寺島が告げると えッ と言う目が ルームミラーに映った。
慌ててこちらの風体を確かめようとする運転手の怪訝そうな
表情だったが、どう見ても冴えない中年オヤジの格好に安心したのか、
すかさず聞いてきた。
「大将、竹川組に何の用事ですねん」
「はは、ちょっとした取材や あそこの若い子に」
「へー若い子にですかい、一体何をやらかしましてん、あの組
ここ数年 そらもう 静かなモノですわ、噂では組の解散てゆーか、
堅気の仕事への模索中らしいですわ」

「え やはりそうですかい・・・」
やはり 大阪の田嶋総業御堂筋ビルの一室で取材した噂は本当だったのか・・・
どうやら組の解散には 取材に応じてくれた 佐々木という元刑事の働きが
一番大きかったらしい。

〔奇跡のヒーローの一員といえど 暴力団現役組員への取材〕
という、胃を重くしていた憂鬱気分が 幾分か軽くなるのを感じた。

「あっ 本のタイトルは 『奇跡のヒーロー達』 これで決まりだわな」

そうつぶやくと タクシーの中で 目を閉じた。

すると二年前の事件後 山陰日日新聞 会長室でのやりとりが蘇った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「会長。この事実を載せずに 一体何が正義ですねん」
「寺島君とやら 口の言い方 気を付けたまえ、これは単なる事件とは違う。
日本政府 さらにアメリカを始め諸外国との国益を賭けた問題や。A木代議士からも先ほど電話を頂戴したんや」

「そんな アホな理屈て 我が社には無縁の世界と思うてましたけん、わしショックで今晩寝られませんがな」

それまで横で無言だった 加治川部長がおもむろに口を開いた。
「寺島君 君の無念さは解る。だが新聞屋の世界では こういう事も有る
ちゅう事や、ワシらだけの力では どないにもならんのや。スポンサーや県民
の為や思うて 辛抱してくれんかの」

「何が スポンサーや県民ですねん。先ほどは政府や、諸外国の問題や 言うてましたがな」

・・・・・・・・・・・・・・
そんなやり取りが 一時間ほど続いたあと

「今直ぐと言うのはまずいが、例えばドキュメント本として発行すると言うのはどうだろうか、数年後になるだろうが」

加治川部長が提案した。

「わしら 即時性ニュースの伝達が一番の使命やと思ってますけん・・・」
寺島は反発したものの、ドキュメント本 というひと言が 心の琴線に引っ掛かった。

「言われてみると・・・100名ものテロリストから日本を救った 奇跡の男らについて 詳しくは何も知らないままじゃないか・・・家島地方の漁師グループがメンバーの中心だった と言うのを さっき官邸職員の細川から聞いたばかりでそれ以上は何も・・・」

「奇跡の男らをあらためて取材してみたい・・・」

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結局 その後新聞社を退社し、フリージャーナリストとして 再出発を行ったのである。

実際取材を始めてみると それこそ 驚きの連続だった。
二十歳前の 拳法の達人とも言うべき若者、彼の上司連中
家島諸島 孫娘とひっそり暮らす サメ漁師や 島の消防団の若い衆に
あの事件に立ち向かうに クセのある連中を取りまとめた 消防団の親分、
それに なんとどういうわけか 現役の組員もメンバーに入っていたと言うのだ。
その彼が 最後の取材先だった。

「あ、お客さん 着きましたけど・・」

運転手の声で 目を開けると 組の事務所前を掃除する
ジャージ姿と目が合った。

「なんじゃい ワレ」
ジャージ姿が 一瞬吼えた様に感じたが やがて ペコリと頭を下げ
目が笑っていた。


        完






   今更 ですが フィクションですので

   (-_-;)