小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 Ⅲ 断崖編 その13

(やはり・・・か) 2010・4・4作戦を任された3号・・・ 29号が、倒された瞬間、 ここにやってくる前、ビルの一室での予感が的中したと、蒼ざめた。

中国拳法の達人な29号・・・ いくら長身とは云え、 数時間前にはフラフラの状態だった従業員に倒されるとは・・・ バイク強奪計画もここ白浜で失敗している。 長身の従業員が現れた瞬間、 「あのときの奴か?」 29号への問いかけに、 「あんなに長身ではなかったし、若くもなかった」 「じゃあ、前の失敗を取り返して来い」 安心して送り出したつもりだったのだ・・・

(ここ白浜には我ら二百人委員会の敵が一体何人居ると言うのだ)


いや正式には 委員会の正式会員にはほど遠い。 下部組織 「夜明けの黒い星」の一員に過ぎない。 なんとしてでも、 2010・04・04作戦は決行、成功させねばならない・・・ そのためにも 先ずは、目の前に立ちはだかるあの男の排除だ。。。

三人の男が浩二に、にじりよる。 ボート上の男は桟橋に上がりはしたものの、動こうとはせず固唾を呑み見守っている。 リーダーとおぼしき奴。 その男も命令を下すだけで、自ら動く気配は見えなかった。 だが、

「!?」

リーダーの表情が見て取れた。 6人の内、ようやく一人を倒したにすぎないにも拘わらず、 明らかに動揺している風だった。 奴ら側としては ありえない”負け”だったというのか。

そうであるならば、優位といえるのだが。

しかし、にじりよる三人は、先ほど以上の”気”を発散させた。

三人とも浅黒く、彫りの深い顔立ちをしていた。かと云って中近東でもない、やはり東南アジア系なのだろう。 背は浩二より低いが、バランス良く発達した筋肉がレーシングスーツを通しても、見て取れた。 すり足。身構えの型。いわゆる拳法の流儀を身につけていると用心すべきだろう。

すべてにおいて付け入る隙など見られない。

波頭が桟橋に打つ。 潮騒の音が大きくなった。

空を舞う風の音も大きくなったようだ。 しかし、その割には重苦しい空気が支配した。

お互いにらみ合ったまま、ある程度の距離を保ったまま微動だにしない。 相手とて 浩二の実力を計りかねているのだろう。

こういうときは、先に動いた方が負け・・・ 勝負ごとの鉄則だったかも知れない。

この空気から逃れたかったコトもあるが、 相手の実力を計りたかったし、 何より悲鳴を上げている左足。これ以上時間の猶予は 無いも同然だったのだ。

向かい正面の男に、少しの跳躍で届く位置まで歩を進めた。

相手に悟られないよう、激痛に耐え、左足を軸の体重移動を試みる。

「うッ」・・・・

思わず叫びそうになった声を押し殺す 足だけでなく 電流をぶち込んだような痛みが背中から脳天にかけ、 駆け抜けた。

無理がある。まともな蹴りや突きは 繰り出せそうにない。やむなく右足を軸に移し変える。。。

そして・・通常の蹴りでは、かわされる恐れがあった。

前方に回転しながら飛び込み、ムチのように蹴るという 胴回し回転蹴りの大技を仕掛ける。 白浜冷凍 元社長坂本の得意技だ。

左足かかとが相手の脳天を直撃。。。

つもりだったが、かわされ、少しかすっただけだった。

それでも多少のダメージを与えたのか 何やらわめきながら うずくまる相手。

「今!」 怪我の左足とは云え、鉛の靴を履いている。 ここぞ勝機とばかり 回し蹴りをお見舞い。

転げながら、かわす相手。

逃がすかっ!

追う。

その時・・・追う右足を一歩繰り出した瞬間

「ドスッ、バチッ」

背中に二発の蹴りによる衝撃を受ける。

前に倒れこむ。 コンクリートに額をしたたか打つ。 鮮血が飛び散り、 目の前に星が飛んだ。

しまった!!

いつの間にやら背後に忍び寄っていた二人を失念していたのだ。

跳ね起きるタイミングがずれる。 が、歯を食いしばり立ち上がる。

ここぞと反撃に出る正面の男。

ビュンッ

周りの空気を裂く音と同時に 飛び上がりながらのヒザ蹴りだった。

(あれは・・・ムエタイの蹴り・・・)

空を見上げながら倒れこむ。

満天だった筈の きらめく星も 視界から消え

波打つ音も

風の音も

そして・・・・

あれほど大好きだった潮の香りも

遠ざかりつつあった。

ムエタイか・・・

もう一度 振り絞るように復唱する時には とうとう意識も薄れ始め、

やがて、闇に落ちて行った・・・。

つづく

※ 当記事は フィクションですので 万が一、実在するいかなる個人、団体とも 一切の関係はございません

(-_-;)