小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 Ⅲ 断崖編 その44

2010年 4月3日(土曜日)午前3時半

(ナンバースリー、こちらナンバーシックス、和歌山ナンバーの格好のターゲット発見、只今より決行する) (ナンバーシックス、こちらナンバースリー。了解)

浩二が、耳に挟んだイヤホンからは英語による上のような交信が流れていたのだが、 熟睡中の浩二には知る由もなかった。

北陸自動車道滋賀県賎ケ岳(シズカダケ)パーキングエリア 25トン大型トレーラー車、運転手工藤良治48歳は仮眠中だったが、尿意を催しトイレに起きた。 腕時計は午前3時半。あたりはまだ漆黒の闇だ。(もう1時間ほど寝るとすっか) 小便を済ましトレーラに戻った。ステップに足をかけよじ登るように運転席へ。 後ろの仮眠ベッドに移動する前に一服とばかり、煙草をくわえた。そのとき、コツコツ 運転席の窓ガラスを叩く者がいた。 「なんだぁー」 パワーウィンドウスイッチを押した。途中まで下がったところで顔を突き出した。 いきなり男の拳(こぶし)が眉間に飛んできた。 あっと声を上げる間もなく気を失った。ガクッとステアリングのど真ん中に額を打ち付ける。

「プワーン」 クラクションが一瞬闇夜に鳴り響いたが、叩き込んだ男がすばやく髪をつかみ引き起こす。 ほんのゼロコンマ何秒かのクラクションだったからか、誰も気付く者は居なかった。

運転手を一瞬に気絶させた男は、男をまたいで、助手席側に滑り込んだ。 運転手の両手両足を持参のロープですばやく縛り付け、タオルで猿ぐつわを噛ませ口を塞いだ。 (万一気付かれても声も出せない筈や) 狭い空間に苦労しながらも、気を失った男をかつぎ上げ運転座席、後部の仮眠用ベッドに寝かした。 (こいつが小柄で助かったぜ) 運転席に移動し、 ダッシュボード上のETC機にカードが差し込まれているのを確認した。 「ふーっ、やれやれだぜ」 (下見で機械までは確認していたが肝心のカードまでは確認出来なかった) 次、周囲を見回し目撃者など居ないのを確かめ、そろりとイグニッションキーをひねった。

グワンっ グルルル・・・

大型ディーゼルの重厚音が静まり返ったパーキングエリアに響く。 フユーエルメーター目盛りはおおよそ半分だったが、(和歌山には十分だぜ) 独りごちた。 グルン。アクセルをヒトふかし。クラッチペダルを踏み込みシフトレバーをセカンドに叩き込む。

前方は真っ暗闇・・・ 冷たい風が ウィンドウから容赦なく流れ込む。 (おっと・・・俺としたことが)

ヘッドライトスイッチを探し引っ張り、 パワーウィンドウスイッチを手探る。 (この国のトラック、なんて贅沢なんだ)毒づきながら叩き込む。 光の筋が前方を照らし、ウィンドウガラスがスルスル上昇していく。

「さてと・・・発車しますか」 25トン大型トレーラーは何事もなかったが如く、静かにパーキングサービスを離れていった。

※ 同 3日 午前6時 みなべ町 ミナベスカイコーポ301

麗花の寝返りの腕が肩を軽く叩いた。 目を覚ました室井・・・ (久しぶりの連休も今日で終わり、だがきょうは丸一日、麗花と過ごせる) ふと考えた。

この1週間。実にドラマ的な日々が駆け抜けた。なにもかも初体験なことだらけ。 今でも夢の続きのような気がした。だが、横で寝ている陳麗花の頬をそっと撫でた。 夢なんかでは無い。 若い女とこうして夜明けを迎えるなど。。 自分には無縁な映画やドラマの世界だと、決めつけていた。 おまけに思わぬ臨時収入さえ。。。

ドラマの幕開け、それは夜勤明けの月曜の早朝から始まった。

(日曜日、文字通りフル回転した観覧車。夜通しかけて整備点検や清掃に室井らも駆り出されていた)

・・・・・・

室井のマンションに強引に入り込んできた男。 「来週。君が担当の観覧車、一瞬でよいから停止させて欲しい」 奇妙な男の依頼だった。

「はぁ?」

最初、威圧的な男の態度に”恐怖”その二文字しか浮かばなかったのだが、徐々に男の態度が変わった。

「何もタダとは言わない。それなりの報酬を用意する」

「え?」

「受けてくれるか」

「そ、そんなの無理です。観覧車の停止だなんて、大騒ぎじゃないですか。一体何の為に」

「写真だ」 「写真?」 「頂上から着陸態勢のジェット機を狙いたい。超望遠レンズゆえ、わずかな振動が邪魔をする。5分、いや3分でよい」

(そういえば、隣接する白浜空港の滑走路が観覧車に近いのを思い出した)

「そんなぁ、やはり自分には無理です。操作は別室の総合指令室で行ってるんです」

「それぐらい承知している。だが非常停止ボタンがあるだろ。君らの立ち位置すぐに。知らないとは言わせない」 (この男、なぜ知っている?)

「で、でも 来週も春休みの日曜、満員が予想されます。観覧車の非常停止なんて大混乱を招くじゃあないですか」

「子供がゴンドラ内で暴れた事にすれば良い。(危険を感じ、つい停止ボタンを押しました)。だれが君を批難するだろうか。なんとでも言い訳の材料があるだろ。少しは頭を働かせ」

(な、なるほど・・・)

「一分につき十万円だ」

「え!・・・」

「君にとって悪くない話を持ち込んでる筈だが。3分なら30万円。5分なら・・・」

「あ、あなたがその写真撮るんですか」 思わず ごくり。室井は喉を鳴らした。

「いや、私も頼まれた。ビジネス相手の社長からだ。その息子さんはプロを目指しているアマチュアカメラマンらしい。実は私も困っている案件なのだ。協力して欲しい」

男は名刺を差し出した。 (東南アジア貿易振興会 理事長・・)とあった。 住所を確認すると田辺市本町、紀伊田辺第一ビル4Fとあった。 (近所じゃないか)

男の顔をあらためて見た。 最初、冷酷に見えた顔だったが、青年実業家の雰囲気さえ漂っていた。国籍不明だったが、貿易関係で来日なのか。 (ヒト助けだと思って協力するか)

「強引に部屋に入り、いきなり殴って悪かった。私も必死だったのだ。これは迷惑料」 言いながら3枚の一万円札を出した。

「いやーそんな。。。」 そして続けて云った。 「3分だけで、いいですか」

「ああ、十分だ」

二日後、またも男から連絡があった。 「レンタカーを借りて欲しい、日本の運転免許を持たない私らには貸せないらしい」 「トラックなんて運転したこと無いです」

「心配ない。営業所から次の信号までの間だけだ、私らが直ぐ運転を代わる」 またもや迷惑料と称し、三万を受け取った。

(あはは。とうとうツキがいよいよ俺にも廻ってきたか。。。) そして・・・ この女さえ・・・。

トイレに跳ね起きた。スキップでもしたい気持ちが高ぶった。

※ 同日 午前10時過ぎ、第二紀伊田辺ビル1階“宇佐見企画”

「先日はいろいろお世話になりまして」 「いえ、こちらこそ。新社長もご無事に発見されたとか、わざわざ連絡いただき有難うございました。で、今日は何の用事で?」 ・・・・・・・・ 佐々木とヒロシは、プレタジュテに訪問しょうとしたのだが、あいにく会社は土曜で休みだった。 会社には留守番の電話当番しか居ないとのことだった。

「しまった、ワシとしたことが」 「例の宇佐見企画、地方の顔役、地元企業のことにも詳しいのとちゃいますか」 ヒロシが言ったのだった。

・・・・・・ 「南部町のプレタジュテ、ご存じでしょうか」 「ああ、プレタさんですか、知ってるも何も、あそこの社長、青年会議所のメンバーです」 「じゃあ、親しい間柄で?」

「ええまあ、ただ 私とすれば強引すぎる杉村社長には付いて行けなく、距離を置いてますが」

「杉村て言うのですか」

「杉村泰三。私と同じ二代目ですわ。確か40前ですが、かなりのやり手です。オヤジさんの跡を継いだ一昨年から急成長ですね。 業界の掟やぶりといえる破格な金額でアチコチの企業とタイアップ。次々に派遣業で進出ですわ。法律改正も追い風だったんでしょうけど。 それでプレタさんがどうかしました?」

「ええ プレタさんは警備部門もなさっておられるんですが、警備関係への人材派遣は法的に確か禁止の筈。そのあたりどうなのか思いまして、直接事情を訊きに行く途中だったです」 佐々木は正直に話した。

「あぁ、警備部門ね。それも強引な話です。最初、うちのオヤジの権力を使い、法律改正まで仕掛けた事があったです。勿論、話は壊れました。んで 派遣が駄目だったら、正式に警備部門を会社として設立したら良いがな。で、警備部門は人材派遣でなく、名目上は警備会社です。ウチのグループにも売込みがありましたがキッパリ断りました。素人の寄り集まり集団に大事な警備は任せられませんけん」

「ほーぅ、なるほど、でも警備会社登録なら公安警察とか審査が厳重。なかなか簡単には設立できない筈なんだが」

「はぃ、そのあたり。ウチのオヤジの権力やコネも利用できるところは、最大限使いまくったのと思います。初期投資と称してかなりの札束が動いた噂です。オヤジは何も云ってくれませんでしたが」 宇佐美社長は苦渋の表情を浮かべた。

「なるほど・・・」 佐々木は納得した。

「ところで いよいよ明日ですね」

「はぁ、問題はそこなんです。警備部門に民間にも協力を要請したちゅう事ですから」 「え、まさかプレタからも?」

「いえ、今のところプレタの方はどうか、確認してないですが、可能性あります」

(田辺署・・・様子を聞いてみるか。いや、安全上、答える訳には行かないだろうなぁ)

亡羊とした署長の顔が浮かび、ギリッ 胃の奥が痛んだ。佐々木は思わず押さえた。

「いよいよ明日ですやん」

ヒロシもつぶやいた。

つづく ※ 当記事は フィクションですので 万が一、実在するいかなる個人、団体、地名、国名とも 一切の関係は ございません

(-_-;)