小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 Ⅲ 断崖編 その51

2010年 4月4日 午前10時20分

白浜市内 国道42号線 (ここまで渋滞が酷いとは) 栗原は、車の脇を750ccバイクですり抜けながら空港方面に走らせていた。

ん! 反対方向からのバイク集団が前方交差点を右折していった。 見覚えのある集団だ。

その先には ワールドアドベンチャーがある。

(ワールドが先だったか) 躊躇することなく、栗原も追いかけるように左折した。

※ 同時刻 佐々木とヒロシ 管理棟ドアの前で耳を澄ませた。 「静かですね」 ヒロシが小声でささやく。 園内は大勢の客で溢れかえっていたが、管理棟のある場所は人通りもなく静かだった。 そこをつけ込まれたのだろう。

「山中の携帯鳴らしましょうか」

「いや、もし犯人側に取られていたらまずい。この場合、正面から突破や。おそらく犯人側はまだ外部に漏れているとは知らない筈だ。単なる通りすがりの客として乗り込む」

「相手は10人。警察が来るまで待った方が良いのでは」

「いや、山中が心配だ。とりあえず中の様子だけでも確認したい。園内を尋ねる一般人にまで手を出さないはずだ」 いうや、ドアをノックした。


だが 中からの反応がない。 ドアのノブに手をかける。 ガチャ 開く。 「すみません お邪魔します」ヒロシが声を張り上げる。

中は無人だった。 二人が入ると 奥からうめき声が聞こえる。

「やばい」 二人が駆けつけると 山中は両手両足を縛られ、ぐったりしていた。

「大丈夫かっ」 佐々木らに気付いた山中がこっくり、うなずく。

「奴らは」 ヒロシが山中の口を塞がれていたタオルを解く。

「か、観覧車 観覧車です。やつら」

「しまった・・・」 時計を見た。

まもなく10時半になろうとしていた。

※ 同時刻 みなべ町ミナベスカイコーポ301

(いよいよ・・・) 陳麗花は部屋の片づけをしながら時計を見た。

玄関の下駄箱も整理しなくちゃ、思いながら玄関に立った時だった。 ドアの新聞受けに白色封筒が覗いていた。 (誰だろう・・) 封筒の裏を見た。 陳海明(チェン、ハイミン) 見覚えのある筆跡 まぎれもない兄の字だった。

慌てて封筒の上を破り、便箋を取り出した。

(麗花へ 時間が無い 走り書きの乱筆許せ・・・ と始まる 長文だった。 だが二行目に 結論を言う。出来るだけ遠くへ逃げろ。とあった。 ただし、組織が用意している逃亡ルートには近づくな。 組織のリーダー 3号こと、李晨長(リーチェンチャイ) 奴の事も忘れろ。 信じられないだろうが、昔 特殊部隊で無実の罪から死刑寸前のところで 奴に救われた事件があったろう。 だが、後で分かったのだが、全ては奴 李が仕組んだ事だった。 今の組織へ兄弟を引き入れる為 得体の知れないデカイ組織がストーリーを書き、奴が実行したのだ。 何度も云う。奴を忘れろ。李は自分の為なら他人をとことん利用するだけの男だ。今回だって 恋人のお前を利用しただろう。

組織のコトも忘れろ。心配は無用。組織やそして本日の行われる予定のコト。 すべては俺が始末する。 たったひとりの妹を、酷い(むご)組織に引き入れてしまった罪滅ぼしだと思ってくれ。 では)

封筒は まだ重い。中を見ると パスポートが入っていた。 組織が用意していた本物だ。 「今さら・・・・」 便箋とパスポートを握り締め 麗花は泣き崩れた。

※ 観覧車はまだ動いていた。 だが、佐々木とヒロシが観覧車に駆け寄ると人だかりが出来ていた。 PJ警備の制服を着た者同士なぜかにらみ合いをしている。

「警備員が駆けつけてくれたか」 だが、 「あ、あの警備員」 ヒロシが声を上げた。 なんと手に銃を持っていた。 「くそッ、偽装警備員や」 乗客らは こわごわ遠巻きに見守っている。

「くそッ」 ヒロシが飛び出そうとした時、 「騒ぎが始まってら。ヒロシさん久しぶりっす」 斉藤だった。御坊のバイク連中も駆けつけた。さらに背中を叩く者があった。 振り向くと浩二が居た。

「銃を持った奴の顔覚えてるわ」

云うや 連中の間に飛び出し、 「おい3号」

「あ、お前!」 銃を向けていた男が驚愕の声を上げる。

「そうよ 海に放り込まれた男よ」 云うや、銃を持った手を蹴り上げる。 銃が真横に跳ね飛ぶ。 さッとヒロシが飛び込み拾い上げる。 「よし、やった。ワシが預かる」佐々木が怒鳴る。

「ほいッ」渡すやヒロシも輪に入る。 それが合図となって 警備員制服同士が殴りあいを始める。だが、 次々に偽装警備員に倒されていく。

3号と呼ばれた男も反撃。浩二と対峙した。

「間に合ったか」後ろで声がした。 云うなり、声の主、栗原も中に飛び込んで行った。 偽装の連中を早くも倒し始める。 「俺らも続くっぞ」 斉藤の号令で バイクの連中が栗原に加勢する。

3号と呼ばれた男 群を抜いた動きだった。蹴りのスピードが違う。

栗原は横目で観察した。

だが、河本社長。。。

(普通 身長が大きいと蹴りや突き。そのスピードは遅く感じるものだ。だが河本のそれは3号と互角。つまり実際には脅威の速度での蹴りや突きと云うことや) (奴は怪物ぞ) 坂本の言葉が蘇る。

浩二・・・ 3号を前にしながら、横目で“奴”を探していた。 そして、ムエタイ男、それに双子の兄弟もこの場に居ないのに気付いた。 (しまった 奴ら空港か)

いつまでもじゃれている場合と違う。 (久しぶりの格闘を愉しんでいたのだが、本気を出す事にした)

クワッ 全身に気合を込めた。奥に眠っている力を呼び覚ます。

次の瞬間 3号の頭上まで跳躍する。 このクソッ 叫びながら右足廻し蹴りを叩き込んだ。

がはっ・・・

スローモーションの様に倒れこむ3号。

ドッと周囲に歓声が沸いた。 ふと気が付けば 他のテロ犯人も倒れていた。

〔ピッ ピピ・・・・・〕笛が鳴り響き ようやく駆けつけた警官隊がなだれ込んで来た。

・・・・・・・・・・・・・ 観覧車乗客担当主任 室井政明 スタッフルーム棟から戻って来、この騒ぎを呆然と眺めていた。

ほんの5分前のことだ。 同僚の平本由紀が「室井さん 陳さんて方から急用のお電話が入ってます」

「えッ」まもなくあの約束の時間が来る。 そう思ったものの、陳と聞いて場を離れていたのだった。 ・・・・・・・・ 「もしもし麗花さん」 (室井さんごめんなさい) 「何がゴメンなんや」 (観覧車まだ停止してないわよね) 「え、なぜそれを?」 (それより、答えて、停止はまだよね) 「う、うん まだ・・・」 (よかった、何があっても停止ボタンなど押さないで) 「な、なぜ」 言いながら壁の大時計を見た。もうすぐ約束の10時40分に差し掛かっていた。 もう間に合わない。 「麗花さん なぜ知ってる」 電話口に叫んだが (ピッ)それっきり切れてしまった。

・・・・・・・・・・・ 警官の一人が叫んだ。 「警部、あ、ありました。ロケットランチャー砲です」

PJ警備に偽装の連中と一緒にやって来た二人組み。 そのカメラマンを名乗る男が持ち込んだケースに入っていたのだ。結局カメラマンは本物のPJ警備員にとがめられ、それを契機に騒動が起きていたのだ。

観覧車が一周し、乗客たちが次々に降りて来る。

「河本社長ッ」駆け寄ったカップルの一人が叫ぶ。 「お、確かシュウジ・・・」 「上から凄いもの見させて頂きました」

ヒロシの元にも老夫婦が駆け寄った。小学生らしい孫を連れていた。 「あ、あの時の・・・」 「へえ、福田です。いやー凄いモノ見せてもらったけん」 言いながら佐々木にも頭を下げた。

時計を確認した浩二が、佐々木に駆け寄る。

「次ぎ、空港っす。空港もやばいっす」

時刻は11時前を差していた。

最終回につづく ※ 当記事は フィクションですので 万が一、実在するいかなる個人、団体、地名、国名とも 一切の関係は ございません

(-_-;)