小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 Ⅲ 断崖編 52最終回

2010年4月4日(日曜日)午前10時56分

「まもなく当機は着陸態勢に入ります。シートベルト装着のご確認を願います」 客室乗務員のアナウンスが響いた。 田嶋総業社長 高城は小窓から望む白浜の海を眺めた。

(なんと美しい青。だが数日前まで河本は、あのどこかの砂浜を彷徨っていたのだ) 珍しく感傷的なものがこみ上げてきたのが自分でもおかしかった。

※ 同時刻 ワールドアドベンチャー 浩二や栗原らにより、既に収まった観覧車付近の騒動。 刑事らにより、事情聴取の為呼び止められた。

浩二はあせった。「佐々木さん、じ、時間が」 「わかった。この場はワシが」


佐々木が言うと 「おい、田辺署の永野署長に今回の騒動を通報した佐々木だ。事情聴取はワシが代表して引き受ける。良いな」 駆け寄った刑事に告げた。 「あ、貴方が佐々木さん。ですが一応全員の聴取を・・」 「悠長な事言ってる場合か。空港や 空港が危ないんや」 横にいた栗原が一喝した。 「詳しいことはワシが責任持つ。疑うなら永野署長に連絡せい」 佐々木が言いながら 浩二らに 早く行って来い。とでも言うように手を振った。

「佐々木さんすんません」 「コージさん、俺のケツに乗って下さい。皆、バイクやバイク出すぞ。バイクで突っ走るけん」 御坊の斉藤が叫んだ。 「バイクはどこに」 「はい、入場門のすぐそばですけん」 「お、俺も」ヒロシが叫んだ。 「ワシのバイクも、そこや」栗原が怒鳴る。 「よっしゃー走るぞ」

同 午前11時00分 日本航空1381便は無事着陸した。 おおよそ800メートルほど滑走したのち、スピードを緩め 転回体制に入る。 方向転換したのちエプロン(駐機場)に向け走行を始めた。

双眼鏡を覗く男、無線機に向かって先ほどから 「こちらナンバーシックス。ナンバースリーどうぞ」 呼びかけているのだが応答が無い。

「失敗か、なんにも起こらないぜ」横の仲間らに告げる。

「へへ、ついに俺らの出番かよ」

「いや、まだ隠し玉が・・・」 言いながらナンバーシックスは再び双眼鏡を覗き込んだ。

・・・・・・・・・・・・・ プン。 シートベルト着用のサインが消えた。 「シートベルト着用のサインが消えましても、ご案内するまでしばらくの着席をお願いします」 客室乗務員がアナウンスした。 その瞬間 立ち上がる連中が居た。 スクリーン前の最前列に座っていた男らだ。

「やっぱり!」 高城は察知し、座席と座席の間を走り抜けた。

立ち上がった3人はファーストクラスへの階段を上がろうとしていた。 「止まれ!」 高城が怒鳴る。 ぎょッと振り向きながらも、高城に殴りかかる。 「キャーーー」機内は騒然となった。

素早く男の拳をかわし、肘打ちを喰らわす。 倒れ、階段ステップに滑り落ちる。 倒れた男の背後にいた者、階段の左右手すりを支点に、両足を跳ね上げる。すばやくしゃがみこんだ高城。すっくと立ち上がるや その足を抱きかかえるように掴み、引っ張る。 ドシーンッ 階段に音が響く。 ゴつッ 尾てい骨をしたたかに打った男の顔がゆがむ。

ドアを後ろに立つ三人目の男。高城に飛び掛ろうとした時だった。ドンッと音を立てドアが開き、その衝撃で男は跳ね飛ばされた。 身構えていた高城、正拳突きで仕留めた。 ドアの向こうから護衛らしき5人の男が出てきた。法王と同じ山吹色の法衣を着ている。

「コレハドウモ、アリガトウゴザイマシタ」

同11時06分 白浜空港 到着口1階 駆けつけた浩二ら 一瞬立ち止まる。 「奴の制服・・・」

ガラス越しにPJ警備の制服を着た男らが見えた。 うち一人は機関銃を手に、出入り口を固めていた。

「しまった。人質に何人か取られてる」 栗原が指差す先を見れば 空港の職員や常駐の警察官までもが、一(ひと)かたまりとなり、 床に座らせられている。 「くそ、機関銃とは」

その時、キー キキッ タクシーが停まり、何人かの走り寄る音が聞こえた。 「あ、坂本社長」 栗原が振り返った。 「渋滞が酷くて、遅うなってすまん」 「ひさしぶり、元気そうで安心したわ」 竜一が浩二に声を掛けた。 「今それどころじゃないけん」 「ないけん。。。と来たか」 「るせい」 再会をお互いの拳を突きあい、喜んだ。が 「機関銃がやばいな」 覗き込んだ坂本が言った。

「持っている奴 俺を倒した奴や」 「例のムエタイ野郎か」とヒロシ 「さっきみたいに飛び出す。俺の顔みてびっくりする筈や、その虚をつく」 「そりゃあ無茶や」栗原が止める。

斉藤が声を上げる。

「なんだ」一斉にみると、人質に銃を向けた犯人の背後に忍び寄る男が居た。

「あ、奴や、あの時の」浩二と斉藤が同時に叫ぶ。

男と機関銃のムエタイ男が何か言いあっている。 次ぎ、男が銃を奪いかかる。虚を付かれたムエタイ。唖然としながらも奪い返す。だが男の蹴りが一瞬速かった。左腕を押さえながらよろめく。 「何する」 ドッと周囲の輪が崩れ、男に飛び掛ろうとする。

「行くぞ」浩二が叫び、全員駆け寄る。

「It is not believed!(信じられない)」 ムエタイ男が浩二を見て叫ぶ。

あん時は、世話になったくるりッと後ろ一回転するや“左かかと”がムエタイ男の首を捉える。 同時に背後の双子の気を捉える。

「二度と喰らうかぁ」 振り返るや 跳躍。兄弟同時に蹴り上げた。 ほぼ同時に倒れこむ二人。

「ピッ ピピーーーー」 警官隊がようやく駆けつけ、フロアーになだれ込む。

「浩二君 無事かぁー」 駆けつけた佐々木の声が響いた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・

浩二は男と向き合っていた。

「おい、銃放せ。もう用が無いだろが」

だが、放そうとはせず、うつむいている。 肩が震えている。 (泣いてるのか) だが、 「ハハ・・・英雄気取りするんじゃねえぞ」 笑いながら銃口を向ける。

!!

だが パーン パーン 乾いた音が二発響いた。

男の腹から血が噴出し崩れ落ちる。 人質に取られていた先ほどの警官が発射したのだ。

「あ、何する」 叫びながら浩二が駆け寄った。

「おい しっかりしろ。銃など向けるからや」 男を抱きかかえながら叫んだ。

「おい 頼みがある・・・」 かすれがちな声がした。 「なんだ」 「**カを頼む」

「え。何 聞こえないぞー」

だが、ぐったりとし、男の唇は動かなかった。

「救急車早よ、呼ばんかいやーぼけ」 ヒロシの怒鳴り声が館内に響いていた。

完 ※ 当記事は フィクションですので 万が一、実在するいかなる個人、団体、地名、国名とも 一切の関係は ございません

(-_-;)

※ 狂二 断崖編 参考文献 『ノレてる、イケてる ライダー養成講座』エイムック2040枻(エイ)出版社 『技を極める空手道』蓮見圭一 監修 ベースボールマガジン社 『物流業界の動向とカラクリがよーくわかる本』橋本直行 著 秀和システム不良社員が会社を伸ばす』太田 肇 著 東洋経済 『冒険手帳』谷口尚規 著 石川球太 画 光文社知恵の森文庫 『新版300人委員会』上・下 ジョン・コールマン博士 著 太田 龍 監訳 成甲書房 『かんたん!フリークライミング』中根穂高 著 東京新聞 『THE武道のリアル』押井守今野敏 共著 エンターブレイン 『空港のはなし』岩見 宣治 著 成山堂書店 『タビハナ 南紀・白浜・熊野古道』 JTBパブリッシング 『図解携帯兵器バイブル』笠倉出版社

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