小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二4 NINE.sec その20

時計がわりに、つけっぱなしのFMラジオ。ミュージックの合間に流れるニュースが「本日は企業や官庁の仕事納めの日」と告げた。何度も繰り返していたらしく、DJが「朝から今ので5回目、けど俺たちには関係ないね」と喋った。 確かに。。。 新聞社時代は交替で休みが取れたものの、基本的には365日24時間フルに臨戦態勢ゆえ、社としてはもちろん、部単位でも「御用納めという儀式」には縁がなかった。そしてフリーとなったいま、いよいよ縁は切れたかと寂しい気持ちすらこみ上げる。ま、若いウチはそんなコトはどうでも良く、無関心だったのは確かだ。それだけ歳を喰った証拠なんだろう。 いよいよ年末か。。。 昨夜---------。 「正月はどげかね、ちょっこし休めるんね」 女房の電話だった。 「いんや、そっち帰るんは三が日過ぎだわ」 「あだん、そぎゃんこと、体に無理しぃだわね」 「ダンダン」 秋以降、急に以前より仕事が舞い込むようになっていた。といっても新春社編集部、三好菜緒子の紹介がほとんどだった。中には自分の名前は表に出ない仕事。たとえばアイドルタレントの自叙伝の代筆などもあったが、週刊誌の連載「任侠探偵」が思わぬ反響を呼び始めていた。 ヒロシの言葉に甘え、ヒントを貰った奴だ。彼に断りを入れてから企画書を作り、三好に持ちかけたところ 「あ、これ良いじゃん」と週刊新春編集部を紹介してくれた。偶然にも新連載を探していたらしく即採用になった。一応ヒロシをモデルにさせてもらったが、大幅に脚色したフィクションでの展開。ノンフィクションとするならばどうしても白浜騒動に触れざるを得なくなってしまう。それは麗花さんや、彼女の兄の身に危険が伴うコトを意味する。 夕刊専門紙からは、年末年始風景のスケッチ仕事の依頼を受けていた。フリーになって初めて原稿料を頂戴した夕刊紙で、絶対に断れない相手だった。明日から京阪神の神社仏閣を回らねばならない。 さてと机の周りでも掃除し、仕事納めの真似事。それも悪くないな。そう決心したとき卓上カレンダーに目が行った。 あ、午後は来客。。
「先週とおなじ二時ごろには着く思いますけん」 白浜冷凍二輪配送部、斉藤からの電話だった。 彼とは先週、近くのコンビニで再会したのだった。 それはまったくの偶然だった。 レジ待ちの時。となりの列、斜め後ろからの視線を感じていた。やけに派手な色がちらり見えた。 ヤンキーっぽい雰囲気を感じてしまい、視線を避けるように無視を決め込んでいたのだが、 「あのー、もしやあんときの?」あきらかに、こちらを呼びかける声がした。 仕方なく振り返ると、なんとあの従業員説明会のとき、遅れてやってきた彼だった。 従業員側の席がなく、私の横に座ったのだった。 派手に見えた真っ赤な色はツーリングスーツであの時と同じようにヘルメットを抱えていた。 「あーっあの時の!」「あ、やはり。久しぶりっす」 彼の陽に灼けた顔。潮の香りが漂う気がし、白浜の光景が思い出された。河本浩二はその少し前冬休みを迎え、白浜に帰ってしまっていた。 白浜が無性に懐かしい。 訊けば二つほど先の交差点にある”健康医療分析センター”へ定期的に配送に来ており、その帰りという。 「お茶でも」河本の近況が訊きたい。 そう誘ったところ、 「えっいいんすか」 云いながら彼は時計をみた。 「やばッもうこんな時間。まだ急ぎのを何軒か残してるけん」と悔しさを滲ませた。 「じゃあ次回、是非に。仕事場すぐそこやから」 と携帯の番号を教え別れたのだった。 ※ 「案外キレイに片づいてるっすね」 斉藤肇(さいとうはじめ)はきっかり2時にやって来た。 「はは、朝あわてて掃除。といっても机まわりだけだわさ」 ソファーを勧め、「コーヒー大丈夫?」サイフォンはすでに用意していたものの一応訊いた。 「えぇまぁ。ありがとうございます。善い香りっすね」 何も無かったが、最近ようやく覚えた挽きたての珈琲豆には自信があった。 「やっぱ都会のマンションで飲む珈琲。美味いっすね」 一口飲み、斉藤は部屋を見渡した。 「あ、チーム高城。て何ですら?」 「え、まぁ・・・」 しまった、見られてしまったか。そう思ったが彼には正直に話した。 ・・・・・・・・・・・・・・ 「なるほど。あ、それすんごく分かります。俺。。。いや僕らもあの人らの一員なんだなーって思う瞬間が一番幸せですもん。俺・・・いや僕の場合河本社長に巡り会ったコトが一番の奇跡ですわ」 「彼とはどこで?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 斉藤からも驚くべき事実が語られた。 河本と出会ったのは 例の白浜騒動。 斉藤は当時、南紀一帯では有名な暴走族グループを束ねるリーダー。。。 事件のあとそれぞれの生活に戻り、以前の日常が始まってはいたものの何となくモヤモヤした気持ちがあったという。 そんな時に、河本からの電話。 「バイクでの配送システムを立ち上げたいんやが仲間らを連れ、手伝ってもらえないだろうか」 「なるほど、社長が以前(365日24時間。バイクが生き甲斐な子)って君たちのコトやったんや」 「えぇまぁ。あと栗原専務や、源田師匠らも。。。元レーサーですら」 「え、あの栗原専務が?」 「まぁ専務の場合。実は・・・」 「実は何ですの」 「俺から聞いたなんて云わないて約束してくれます?」 「そらあもちろん、僕らの仕事は信用が第一なこともあるわけで、秘密厳守は鉄則です」 いうや、斉藤が放った次の言葉に、ひと口啜った珈琲を思わず噴出すところだった。 「もと組関係の幹部やったです」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ところで河本社長元気?」 「えぇ、帰るなり相変わらずで、けどとりあえず今、社長は別の人やけん」 「栗原専務が代行で?」 だが、またも帰ってきたのは驚くべき言葉だった。 「いえ、沢田さんです、経理の」 「え、まさか。あの沢田さん?」と、その時点では驚いたものの、 「えぇ、栗原専務の推薦で田嶋の高城社長が決めたんです」 なるほど・・・・ 強固な絆で結ばれた彼、彼女たち。社長は誰であろうと関係ないのだろうおそらく。特に栗原専務がナンバーツーとして目を光らせている限り。 それに、沢田女史なら河本がいつ帰ってきても、すんなりと元に戻れるっちゅう寸法。。。 その絶妙とも云える配慮に唸り感心した。 「どうもお邪魔しました珈琲うまかったです」 「またいつでも寄って下さい。白浜の話 いつでも楽しみやから」 「ありがとうっす」 そう云って斉藤は去り、2012年も過ぎていった。 2013年夏 モスクワに向け 熱く沸騰するような年が明けようとしていた。 つづく ※ 言うまでもありませんが、 当記事は フィクションです 万が一、実在する、あるいは良く似た、いかなる個人名、団体名 、地名、出来ごと、などが出現しようとも 一切の関係はござい ませんので。 (-_-;)