小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

ミモザの花が散ったあとに 19

前村を見送ったあと、三田村は腕時計を確認した。
「そろそろ8時半か、中沢も来てる頃やな」
いよいよか、と胸がどきりとした。
「けどその前にや、森野」
「あはい」
「ほんまに大丈夫なんか」
「えぇまぁ。。。」
「その、まぁのあとの沈黙は何やねん」
「あいえ。。。」
「今のうちゆうとけ」
「この僕など、エリートばっかりの一課で続けられるかどうか、やはり不安なんです」
「奴らがエリートてか」
「えぇ」
すると三田村は笑いだした。
「何が可笑しいんですの」
「あはは、いやすまんすまん。なにがエリートなものか奴ら。特に中沢な」
「でしょうか」





「あぁ。ここだけの話、奴も落ちこぼれの独りや」
「まさか」
「てゆーか、繊維事業部。。。森野」
「あはい。本当のエリートは航空事業部とか、貿易事業部、原油事業部そっちの勝ち組の連中のコトを云う。繊維事業部は負け組や」
「けど一課はほとんど東大出とか。。。」
「はは、学歴などクソの役にも立たんわ。この僕がええ例や」
「・・・・・・・・・」
「ま、いずれにせよ 奴。。中沢」
「はぃ」
「あいつも結構もがき苦しんでる。。。あ、いや別に君のコトだけが原因やない。前からや」
「・・・・・・・・・・・・」
「けどな森野。去年から、繊維事業部も」
「えぇ」
「我らの繊維事業部にもフォローの風が吹き出したんや。わかるよな」
「えぇまあ」
「ジャンニビアンコや。で当然一課や、二課も・・・・あ、そのうち発表があるだろうけど将来ライセンス事業部として統合される」
「え、そうなのですか」
「そうなりゃ一課も三課も関係なくなる。三課は紳士モノて決まってたけどライセンスブランドちゅうたら婦人モノとか紳士モンとか分けられへん」
「なるほど」
「今までが変な体質やっただけのコトや。これからますます良くなる」
「だと嬉しいんですが」
「来月の総会で発表される筈や。ただ全体的に生まれ変わるか、それとも新たにライセンス事業部が出来るか詰めの段階やな」
「詳しいんですね」
「そりゃあ提案した張本人やから」
!?
三田村氏は照れくさそうに頭を掻いた。
彼の本質的な凄さを垣間見た気がした。

「さてと、中沢や。そろそろ連絡するで。大丈夫か」
こういう神経の細やかさも嬉しかった。
もう少しこのまま居たい。。。そう思ったものの
「お願いします」と頭を下げた。
三田村は「じゃあ」と立ち上がり、隅っこの内線電話を持ち上げた。
その隙に、先ほど前村がよこしたメモを、さっとポケットに仕舞う。
「あ、中沢?。。。今からそっち行くわ。。。。あ、いや森野君と一緒やねん。。。。。。うん、入り口でバッタリ逢うて。。。。あ、ちゃうちゃう。僕が無理矢理にココへ。。。。。んじゃあ。。。え、こっちへ来るてか。ちょい待って」
三田村が振り向いた。
一瞬躊躇したものの、その方が好都合だと思った。
「はぃ」と頷くと
「じゃあ、ここで。。。え?あぁ、ミーティングルームや。うん三課の。。。川村?ニューヨークや例の。。。んじゃ」
あのエリート課長の中沢に”タメ口”を利く三田村が頼もしい。
それより。。。。
「川村課長、ニューヨークなのですか」
「あぁ横山と一緒や」
道理で。。。。この時間にしては何となく静かだと思っていた。前村と2、3人の先輩たちの話し声が聞こえる程度だった。
「ニューヨークとは珍しいですね」
田代さんを思い出した。3月末には船場商事を退職、ご主人の元へと渡米されていた。
「あぁ、カルベロ何とか舌の噛みそうなライセンスの話や」
「まさか、カルベロ・クラロ?」
「あぁそれそれ。知ってるのか?」
「えぇまあ、たまたま」
あのコロンの香りを思い出していた。
「日本ではまだまだ馴染みが薄いハズやけど。。。」
三田村が怪訝な表情をした時
「あ、お早うございます」「お早う」
前村の挨拶に続き、中沢の声が聞こえた。
「ヤッコさん、おいでなすった」
三田村がニヤリと笑い片目をつぶった。
来た。と思った。心臓が高鳴る。
どういう顔で出迎えれば良いのだろう。
「こちらです」
前村の案内の声が近づいた時、弾かれるように立ち上がっていた。
コンコン遠慮がちにノックが響く。
三田村が
「まあ入れ」と云うと
「失礼。。。」と云いながら中沢課長が入ってきた。
  
                 つづく

※ 言うまでもありませんが、
当記事は フィクションです
万が一、実在する、あるいは良く似た、いかなる個人名、団体名、地名、出来ごと、などが出現しようとも 一切の関係はございませんので。
あと、ついでに言わせてもらうならば、これは「ミモザの咲く頃に」シリーズの続きでもあります。

(-_-;)