小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

ミモザの花が散ったあとに 25

部屋を出る高田の背中を見送りながら
ぼんやりとしていたものが、カタチとなって現れたと思った。
しかし清水先輩は
「これのどこが格好いいねん。。。わからんわ」ぼやきながら
「課長もそう思いまっしゃろ」と中沢に同意を求めた。
中沢は、いや、とかぶりを振り「おかげで、見えてきたものがある」と言った。
「はあ!?。。。よーう見て下さいや、ゴム長でっせ」
「あぁ。」
「あぁや、ないでんがな。。。ウチの新規ブランドちゅうことで百貨店から注目されてるんでっせ」
「もちろん分かってる」
「分かってんやったら、その写真はボツで宜しいな」
「いや、だからさっき、タカタのおかげで気づいたものがある」


「またまたエエ加減な」
「いや、ええかげんやない。この写真はようするに。。。」
課長が何か言おうとしたが、清水は
「なにが悲しゅうて農作業ファッションを提案せなあきまへんねん。。。あ、君らも思うやろ」
「えぇ」「まぁ」と頷く営業員。
だがひとり頷かない自分と目が合った。
「あ森野、君はどう思う」
迫力に気圧され、一瞬うなずきそうになった。だが
「あ、いえ。自分の場合・・・・、課長と一緒です。なんとなく分かったような気がします」
「またあ君までも。もういっぺん見てみい」
清水は、課長から写真をひったくると差し出してきた。
彼は彼なりの哲学が許さず、必死さが伝わるようだった。
だがひと呼吸を入れ、写真を眺め云った。
「これはおそらく。。。ファッションの提案と言うより、生き方に対する提案だと思います」
「またぁ」
「これからの女性はこうあるべきと言う。。。」
「またそんな、小難しいこと。。。。生き方てか?」
「えぇ、近頃はやりの言葉で云うとライフスタイル・・・あ、僕の勝手な解釈かもしれません」
「いや、僕も」と中沢が
「僕も同じ意見。さっき云おうとした続きやが、ようするに、『女性たちよ、これからはもっと自由に。そしておおらかに。』ていう、メッセージやと思う」
あ、なるほど。との声が上がった。
「ファッションの提案でなく?」
「あぁ、そうかもな」
「・・・・・・」またも清水が固まってしまった。
ようやく顔を上げると
「森野にもう一度訊くけど、このゴム長の説明は?」
「ですから。。。あくまでもイメージやと思います。ゴム長とかハイヒールとかこだわらない生き方。。。。胸を張り、堂々と自分を押し通しなさいという。。。誰にも媚びを売らず、そして文句も言わせないような。。。」
「うーん」
と清水は唸った。
彼なりの答えを見つけようとしてるのだろう。
「そう来るか。デザイナーブランドて、何や知らんけど、ほんまややこしすぎる。」
「えぇジャンニもそうでした」
「ほーう。あのジャンニも」
「えぇまぁ。川村課長に聞いた話ですが、とっかかりの一枚目はファッションと何ら関係のないサーカス団のライオンの写真やったらしいです」
「なんとまあ。ライオン。。。それに比べりゃ、人間はまだマシか。」
ようやく清水に笑顔が戻った。
「あ、けど今回の場合、女性が対象。。。はたして受け入れてもらえるかどうかや」
「うちの課で言えば・・・。すでに50パーセントの市場獲得」中沢が笑った。
「あ、タカタ・・・・」


                         ※

慣れない社員食堂に要領もわからず、まごついていると、清水が
「あ森野、食券が先きや」とか「お勧めは日替わり定食」など率先して世話を焼いてくれた。
「3課時代は、ココ利用してなかったんか」
「えぇ、いつも混雑してましたから。」
時計の針は11時40分を回ったばかりで、だだ広い社員食堂も、営業一課の貸し切り状態だった。ただ高田ら女性組は交代で電話当番。
中沢が
「12時まわってから行くからや」と言った。
「てっきり昼休憩は12時からと思ってました」
「一応、12時てことになったある。けど就業規則のどこにも、12時からとは書いてない」
「え、そうなのですか」
「あぁ、この清水が発見してくれた。今年から組合の副委員長や」
「なるほど。ぴったりですね」
「何がやねん」
「あ、色々と」
「はは何でも経験が大事てことよ。さ、早よ食べよか。満員になるさかい」


がら空きだった食堂も、12時を回ってしまうと急に賑わいをみせ始めた。
後ろの席から
「図書室また利用できるらしい」「え、ほんまぁ」
などの声が聞こえた。
朝見た掲示板を思い出していた。なるほど図書室。。。

                 つづく

※ 言うまでもありませんが、
当記事は フィクションです
万が一、実在する、あるいは良く似た、いかなる個人名、団体名、地名、出来ごと、などが出現しようとも 一切の関係はございませんので。


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