カルベロは、コヤツ一体何者?的な視線を僕に向けていたが
川村の紹介に、「オーミスターモリノ。ナイスミーチュー」
と手を差し出してきた。
どのように返していいものか、どぎまぎしながら 「は、ハロー」と応えた。
それだけで一日分の汗をかいた気がした。
席から様子を伺っていた前村がかけ寄ってきた。
だが、僕には眼を合わそうとせず、
「課長。じゃあ休憩室、案内してまいります」とぺこりと頭を下げた。
「あぁ頼む」
前村はカルベロに向き直るや
「ミス、カルベロ。プリーズ」と余裕で会釈を向けた。
「ひとりで大丈夫か」気遣う横山に
さも、”全然平気”という笑顔をむけ
「YES」と返事した。
久しぶりに見る前村の笑顔。だが一度きりも僕と視線を合わせようとはしなかった。
彼女らと行き違いに、サンダル履きの三田村先輩が、ペタペタ鳴らしながら階段を降りてきた。
眼が合うと、よぉっ森野と手を上げ「さっそく聞きつけて来たん?」
いつもと変わらない三田村先輩に、またも癒される。
「あ、いやタマタマですねん」
「よほどの縁やな。うん」三田村はひとりで納得するように頷き
「で、課長。段取りすませて来ましたさかい。いつでも大丈夫ですわ」
「すまん、急で悪かった。で、健介社長も?」
「えぇ居てはりま。国光のみやげ話につきあわされてますわ」
!
国光・・・・・。
「常務も一緒に。。。ですか?」
川村は「え、あぁ」と頷き
「めちゃ、にぎやかやった」少しげんなりした表情で云った。
横山は、「この3日で、常務と3年分の会話をした気分や」とつぶやいた。
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「じゃあそういうコトで。。。」川村は時計を見、「そやな20分後、10時半すぎから始めたい。場所は役員会議室。中沢に伝言頼むわ」
「了解しました。では後ほど」
席を離れようとすると
「あ、森野」
と再び呼びとどめられた。
「はぃ?」
「会社にはいつから?」
「連休明けから。。。」
「もう大丈夫なんか」
「えぇ。もうすっかり」
「無理するなよ」
「えぇ。ありがとうございます」
「ま。。。元気そうで何よりや、安心した」
「ありがとうございます。ご心配をおかけしました」
「ニューヨークでもずっと気になってた。君が一番辛いときに1課に追いやったって感じで」
「あ、とんでもないです。3課の皆さん、親身に心配してくれました。決して忘れません。それと三田村さん・・・」
「サンダーソン?」
「えぇ。当時のいきさつをお聞きしました。今回のことは自分にとって名誉なことだと思ってます」
「そう云ってもらえるとありがたい。じゃあ1課でも頑張りや。ちゅうか当分カルベロの件で共同作業になるのかな。じゃ」
「では後ほど」
「あぁ」と川村は頷き
「あ、もうひとつ。」と呼びとめた。
「はい?」
川村は云いにくそうな表情で
「前村と何かあったのか」と訊いてきた。
!
「え、いえ別にぃ何も。前村がどうか?」
「あ、いや。。。ただ・・・・先ほど、君とは視線を合わせようとしなかった。わざと避けているようにも見えたんやが」
「え。そうでしたっけ?。ぜんぜん気づきませんでした。あ、きっとカルベロのことで頭が一杯だったのじゃないですか」
「。。。。なるほど。そうかもな。僕の勘違いかな。じゃ後ほど」
では。と3課を後にした。
しまった。と思った。
そうでしたっけ?と平気を装ったものの、声は震えていた。おそらく顔にも現れていたに違いない。川村が見逃す筈など・・・・・。そう思うと、ますます恥ずかしさがこみ上げたのだった。
だが一方で 以前とまったく変わらない気遣いに嬉しく思ったのだった。
※
いきなりの本人を交え、契約に際しての会議が始まろうとしていた。
カルベロクラロ。。。ブロンズの長い髪が印象的で、プロフィールの写真より若く見える。だが特徴のあるコロンの香りと、ブロンズの髪で彼女だと気づいたが、まったく普通のファッションに身を包んでいた。街ですれ違っただけとしたら、きっと気づかなかっただろう。
デザイナーとしてのオーラが強く出ていたジャンニとは対照的だと思った。だが彼女の行動力は凄いの一言だ。
突然に決まった来日。中沢の3課への電話がつながらなかったのも無理ない。川村らの帰国ともに、突如現れたカルベロの応対に、ちょっとしたパニックになっていた頃だという。
つづく
※ 言うまでもありませんが、
当記事は フィクションです。万が一、実在する、あるいは良く似た、いかなる個人名、団体名、地名、出来ごと、などが出現しようとも 一切の関係はございませんので。
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