小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

ミモザの花が散ったあとに 32

カルベロは、コヤツ一体何者?的な視線を僕に向けていたが
川村の紹介に、「オーミスターモリノ。ナイスミーチュー」
と手を差し出してきた。
どのように返していいものか、どぎまぎしながら 「は、ハロー」と応えた。
それだけで一日分の汗をかいた気がした。
席から様子を伺っていた前村がかけ寄ってきた。
だが、僕には眼を合わそうとせず、
「課長。じゃあ休憩室、案内してまいります」とぺこりと頭を下げた。
「あぁ頼む」
前村はカルベロに向き直るや
「ミス、カルベロ。プリーズ」と余裕で会釈を向けた。
「ひとりで大丈夫か」気遣う横山に
さも、”全然平気”という笑顔をむけ
「YES」と返事した。
久しぶりに見る前村の笑顔。だが一度きりも僕と視線を合わせようとはしなかった。

彼女らと行き違いに、サンダル履きの三田村先輩が、ペタペタ鳴らしながら階段を降りてきた。
眼が合うと、よぉっ森野と手を上げ「さっそく聞きつけて来たん?」
いつもと変わらない三田村先輩に、またも癒される。
「あ、いやタマタマですねん」
「よほどの縁やな。うん」三田村はひとりで納得するように頷き
「で、課長。段取りすませて来ましたさかい。いつでも大丈夫ですわ」
「すまん、急で悪かった。で、健介社長も?」
「えぇ居てはりま。国光のみやげ話につきあわされてますわ」


国光・・・・・。

「常務も一緒に。。。ですか?」
川村は「え、あぁ」と頷き
「めちゃ、にぎやかやった」少しげんなりした表情で云った。
横山は、「この3日で、常務と3年分の会話をした気分や」とつぶやいた。

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「じゃあそういうコトで。。。」川村は時計を見、「そやな20分後、10時半すぎから始めたい。場所は役員会議室。中沢に伝言頼むわ」
「了解しました。では後ほど」
席を離れようとすると
「あ、森野」
と再び呼びとどめられた。
「はぃ?」
「会社にはいつから?」
「連休明けから。。。」
「もう大丈夫なんか」
「えぇ。もうすっかり」
「無理するなよ」
「えぇ。ありがとうございます」
「ま。。。元気そうで何よりや、安心した」
「ありがとうございます。ご心配をおかけしました」
「ニューヨークでもずっと気になってた。君が一番辛いときに1課に追いやったって感じで」
「あ、とんでもないです。3課の皆さん、親身に心配してくれました。決して忘れません。それと三田村さん・・・」
「サンダーソン?」
「えぇ。当時のいきさつをお聞きしました。今回のことは自分にとって名誉なことだと思ってます」
「そう云ってもらえるとありがたい。じゃあ1課でも頑張りや。ちゅうか当分カルベロの件で共同作業になるのかな。じゃ」
「では後ほど」
「あぁ」と川村は頷き
「あ、もうひとつ。」と呼びとめた。
「はい?」
川村は云いにくそうな表情で
「前村と何かあったのか」と訊いてきた。

「え、いえ別にぃ何も。前村がどうか?」
「あ、いや。。。ただ・・・・先ほど、君とは視線を合わせようとしなかった。わざと避けているようにも見えたんやが」
「え。そうでしたっけ?。ぜんぜん気づきませんでした。あ、きっとカルベロのことで頭が一杯だったのじゃないですか」
「。。。。なるほど。そうかもな。僕の勘違いかな。じゃ後ほど」
では。と3課を後にした。
しまった。と思った。
そうでしたっけ?と平気を装ったものの、声は震えていた。おそらく顔にも現れていたに違いない。川村が見逃す筈など・・・・・。そう思うと、ますます恥ずかしさがこみ上げたのだった。
だが一方で 以前とまったく変わらない気遣いに嬉しく思ったのだった。

                          ※
いきなりの本人を交え、契約に際しての会議が始まろうとしていた。
カルベロクラロ。。。ブロンズの長い髪が印象的で、プロフィールの写真より若く見える。だが特徴のあるコロンの香りと、ブロンズの髪で彼女だと気づいたが、まったく普通のファッションに身を包んでいた。街ですれ違っただけとしたら、きっと気づかなかっただろう。
デザイナーとしてのオーラが強く出ていたジャンニとは対照的だと思った。だが彼女の行動力は凄いの一言だ。
突然に決まった来日。中沢の3課への電話がつながらなかったのも無理ない。川村らの帰国ともに、突如現れたカルベロの応対に、ちょっとしたパニックになっていた頃だという。


             つづく

※ 言うまでもありませんが、
当記事は フィクションです。万が一、実在する、あるいは良く似た、いかなる個人名、団体名、地名、出来ごと、などが出現しようとも 一切の関係はございませんので。

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