小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

ミモザの花が散ったあとに 33

「いいですか皆様。何も主張しない。いや、主張して欲しくない。これが新しい私のファッションスタイルとご理解ください。以上、わたしの挨拶に代えさせていただきます」

それまでは、カルベロによるテーマ説明と、彼女の言葉を訳す社員の声だけが静かに響く会議室だったが、最後の言葉がきっかけに俄然騒がしくなった。三田村の依頼で、急きょ同時通訳という大役を仰せつかった帰国子女の社員。心配顔で(何か誤訳でも?)と三田村を振り返った。三田村は、(いや、ぜんぜん大丈夫)と言うように手を振りながら笑った。
だが、ざわめきは、役員たちが居並ぶ席にも波及。国光ひとり悠然と構え、となりの健介社長に何事か説明を始めている。
共にニューヨークから帰国し、カルベロ氏の隣に座っていた川村が、
「えー。静かに願います。彼女の紹介ならびに説明は以上です」ざわめきを鎮めるかのように言った。
だが案の定、一課の清水が真っ先に手を挙げた。

「あのー、川村課長。」
「あ、はい」
「今の説明、三課長として、どう判断されたのでっか?」
すると、川村は隣の横山が何か言いかけるのを手で制止し
「判断と言うと?」
「あ、ですからおたくらの判断」
「質問の意味がわからないが」

「じゃ言い直します。ニューヨークでもお聞きになられたと思うのですが、それで納得されてきたのでっか」
「そりゃあまあ一応」
「一応?」
「あぁ。一応」
「一応。つまり全面的な納得では、ないっちゅうことで宜しいでんな」
「いや、とりあえずの仮契約に調印。だから一応と言った。で一体何が聞きたい。さっきから」
川村にしては少し”むッ”とした言い方だった。
「先ほどの説明でんがな。カルベロの」清水も怒気を含めながら立ち上がろうとした。
清水の横に座った中沢が、まあまあとなだめた。
「カルベロの?」
「えぇ、カルベロさんの」

とうとう横山先輩が、立ち上がり
「一体何が不満やちゅうねん?」と声を荒げた。
「さっきの説明じゃ、納得できまへんがな」
大阪弁では清水も負けていない。
「何が不満やちゅうねん」
「ほな、言わせてもらいます。さっきのアレじゃあ、わざわざブランドを導入する意味など、ないんちゃいまっか」

通訳を通し、彼らのやりとりを聞いていたカルベロが、なにやら猛烈な勢いで通訳の子にまくし立てた。
聞き漏らすまいと必死に耳を傾けていた通訳は、聞き終えると清水を指しながら

「逆にあなたに聞きます。私のブランドに何を期待し、導入を希望されたのですか?」

ふとカルベロの表情を伺うと、まだ笑みがあった。
急に指名された清水は慌てながらも
「そりゃあもちろん、ほかのブランドと差別化を計ることでんがな」と即答した。
通訳の子が、清水の大阪弁を必死に訳し、また彼女の言葉を訳し直す。。。と云う作業が繰り返された。

「差別化?」

「はい、差別化でおます」

「差別化が目標ですか」

「あ、ちゃいます。差別化を計ることにより、売りのアップにつながります。あくまでも狙いは売上のアップでんがな」

どうだ参ったか。と云うように清水は腕を組んだ。
清水の大阪弁を通訳の子は、身振り手振りでカルベロに伝えた。
にこやかだったカルベロの表情が一変した。
「売りのアップ。それだけが船場さんの目標だったのですか」と訊いた。
清水は、さも当然と言うように
「YES、売り上げのアップでおま」と胸を張った。

「はい了解しました。もう結構です。今後船場さんとの交渉は二度とすることは無いでしょう。では皆様サヨナラ」

あ、私の言葉じゃないのですぅ。。。。とでも言いたげに通訳役の社員が身をすぼめた。

            つづく

※ 言うまでもありませんが、
当記事は フィクションです
万が一、実在する、あるいは良く似た、いかなる個人名、団体名、地名、出来ごと、などが出現しようとも 一切の関係はございませんので。
あと、ついでに言わせてもらうならば、これはミモザの咲く頃に」シリーズの続きでもあります。

(-_-;)