小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

ミモザの花が散ったあとに 35

「ここはひとつ。。。。相手は女性」
「う、うん・・・・。」
アメリカではレディファーストの国。とりあえず一歩譲って先に謝罪してはどうでしょう?」
「は、はあ!?」
そして清水は、疑念の眼を向けたあと「なんでやねん」とふてくされた。
「それオカシイ思う」
営業一課の原口らも近づくや口々に言った。
「あ、ですから。。。」
背中をひと筋、冷や汗が流れ落ちるのを感じた。
「ですからもヘチマもあらへんがな。向こうがオカシなコト言うから、正直に訊いたまでや。それを[逆にあなたにお訊きします]って。。。人をコ馬鹿にしやがって。そう思うやろ森野っ」
「あ、はい」・・・・・・あ、やっぱ言ってる。。。。


                       



清水らの視線を避けるように、カルベロらの方に首を振る。だが彼女の視線も、こちらに集中したままだった。三田村先輩と眼が合った。
説得は未だかと眼で催促された。
そんなあ。。。
ドクンッ と小さく胸を打ち、血の気が引くのを感じた。
所詮、急ごしらえな小手先の嘘など・・・・簡単に通用するわけなど。。。

けど。。。。そもそも・・・

そもそも、なぜ自分がこんな苦労を?ふとそのコトに気づくと、怒りがこみ上げてきた。

「先輩ッ。もうええかげんにして・・・・・」
「ん?」
「えぇかげんに。。。。」
あ、いやいや。彼の性格。。。深く考えもせず、言葉が先に出てしまうタイプの。だが
気まずさ一杯の思いだった先日の朝礼。挨拶に詰まったあの時、清水のヤジに助けられたようなものだ。
あの瞬間から、一課に受け入れられたのだ。あの恩義は決して忘れるまい。

「先輩の怒りはもっともや思います」
「だろう」
あとで、どうのこうの言われようとも構うものか。嘘でも方便でも、とりあえず・・・・
そう、とりあえずなのだ。この場を凌ぐことが先決だ。

「ほら。カルベロ。。。」
「カルベロがなんやねん」
「やっぱどうみても、早く謝りたいて、うずうずしてはる」
そう思いながら見ると、そういう風に見えるのが不思議だった。
清水が振り返る。
「あ、ほんまや」
清水より先に、原口が素っ頓狂な声をあげた。
不思議なことに、清水と眼を合わせたカルベロは、こころもち頷き、そして微笑んだ。
よしよしこの調子。(天はまだ我れを見捨てず)か。。。。
だが

「けどな森野。」
「あはい」
「それやったら、なんでけえへん(来ない)ねん」
「けえへんちゅうと?」
「向こうから謝りに来るのが筋(スジ)っちゅうもんやないか」

あ・・・・・

「え、えぇ。。確かに。。。ですけんど」
「けんど何やねん」
「向こうから来る前に、船場の心意気ちゅうか。。。あ、いやいや清水先輩だけが持ってはる男の儀を見せつけたりましょうよ。こんなにも、心が広いねんぞって」
「それ、ええんちゃいますぅ?」原口も賛成した。
「うッ・・・・」
少しだけ清水の眼が輝いた。
「それより何より。。。」
ひと息ついて
「やっぱ、あのまま終われませんよ。売り上げアップの何が悪いって。主張しないブランドって一体なに?本音で意見をぶつけ合いましょうよ。次は僕らも加勢しますもん」
「賛成」」」原口を始めとし、営業一課全員が頷いた。

清水は「確かに」と発し
「うーん。」と唸ったが、眼は先ほどより輝きを増した。そして
「この前見た農作業ファッションな。まだあの方がマシや。差別化できるぅ思う」と言った。
「ですよね」
原口らも頷く。
「一課は皆、清水先輩に賛成やと思います。けどそれにしても不思議なのが三課。。。」
と川村の方を見た。
川村と横山は説得の真っ最中だった。
「川村?」
「えぇ。あとで川村課長らの真意も知りたい思います。なぜ、あのまんま押し通そうとしたのか。ニューヨークでどう説得されてきたのか。。。って」
「清水さん、やっぱ会議を再開させましょうよ」
原口も必死にあと押しをしてくれた。

清水はしばらく考えこんでいたが
ようやく

「よしっ分かった。」
力強く発するや、立ち上がった。

その声にカルベロが振り返った。
瞬間、会議室の空気が張り詰めた。だがカルベロが微笑むや、緩やかな空気が流れ始めた気がした。


つづく

※ 言うまでもありませんが、
当記事は フィクションです
万が一、実在する、あるいは良く似た、いかなる個人名、団体名、地名、出来ごと、などが出現しようとも 一切の関係はございませんので。
あと、ついでに言わせてもらうならば、これは「ミモザの咲く頃に」シリーズの続きでもあります。

(-_-;)